作品投稿掲示板 - B-REVIEW
重要事項
お知らせ

千絵ちゃん   

作成日時 2019-07-02
コメント日時 2019-07-25

「なんだ、大丈夫そうですね」  千絵ちゃんはシにたくてシにたくて仕方がなくなってカウンセリングに行った、午前九時三十五分、いつもならまだお布団にくるまれている時間なのに、運がいいのか悪いのか予約ができたのが保健センターに駆け込んだ二週間後のこの日この時間帯だったので、千絵ちゃんは頑張って、それはもうとてもとっても頑張って、午前九時三十五分、人間みたいな恰好を、ちゃんと、して、保健センターの二階の薄暗い小部屋に座っていた。 「相談できる人が思いのほかいるようですし。家庭環境も、良さそうですね」  カッターナイフを持っていなくてよかった、窓が遠くてよかった、ちょうどいい紐がなくてよかった、舌をかみ切る勇気がなくてよかった、よかった、よかった、よかった、千絵ちゃんはとっても運がいいのかもしれない、ラッキー・ガールってやつ、うん、よかった、って千絵ちゃんは思った。瞳がゆらゆら頼りなさげに揺れて、口元にはきっと惨めな愛想笑いが張り付いている、って、千絵ちゃんは鏡を見なくてもわかるし、だからシにたくてシにたくて仕方がなかった。  人間がたくさんいるから、千絵ちゃんは大学がすきになれなかった。もう五年も通っているというのに、毎朝人とすれ違うたびに後悔と嫌悪が喉を駆け巡り脳細胞が壊死していくのを感じてしまう、どうして、こんなにも人間が嫌いなんだろうって千絵ちゃんは不思議で仕方がないけれども、けれどもけれも、理由も接点もなにもなくても、千絵ちゃんは大学がすきにはなれないし、うじゃうじゃいる人間に自傷行為のように傷ついていた。  へらへら笑うのが得意だし、たまになめられているのを感じてしまったときは夜に枕を涙で濡らしながらありったけの被害妄想を織り交ぜて憎悪を募らせる毎日だった、過去のことものこのこ思い出すのが千絵ちゃんの悪い癖で、一年も前のできごとだって千絵ちゃんはいまだに執念深く許せなくって、それなのに、それなのにどうしてって思う出来事があって、とにもかくにも千絵ちゃんはシにたくてシにたくて仕方がなくなった。ふざけるなよって千絵ちゃんは思うしかない、罵詈雑言吐き出したいし握りしめた小さなこぶしで非力でいいからめったくったに殴って暴力で解決したいって思ったりもしたけれども、千絵ちゃんはダメな人間だからそのどちらを行う勇気も出なくて、だからへらへら愛想笑いを張り付けてぐちぐちっと解決できないくせに中途半端な行動をとるしかなかった、それで、また千絵ちゃんは夜に枕を濡らして憎悪を募っていくのだし、本当にばかみたい。  もう何度目かわからないけれども、千絵ちゃんは人間関係の形成をまた間違えてしまっていた、それは一年前のことを引き摺っているからとかもあるかもしれないけれども、とにかく、千絵ちゃんは人間関係の形成を大失敗した環境に毎日通わなくてはいけなくって、その中で造り上げた自分のキャラクターにもうわけがわからなくなってしまって千絵ちゃんは故障寸前だった、って言うと千絵ちゃんだけが被害者みたいだけれども本当のところは千絵ちゃんは独り相撲をしているにすぎなくって千絵ちゃんはセルフで傷ついてセルフで生きづらくってセルフで絶望を募らせているだけだって、千絵ちゃんはどうしようもない馬鹿だけれどもわかっていた、わかっているからなおさらシにたくてシにたくて仕方がなかった。  出張で飛行機に乗るときに、一緒に行く先輩は行きも帰りも墜落事故の話をしていて、千絵ちゃんはもういっそここでシんでしまえればいいのになって罪を感じながらも考えてしまっていた、し、もしシんだときには誰も悲しんでくれるなって千絵ちゃんはいつもいつも願いながら生きている。愛想笑いを浮かべてやりすごすしかなくって、それでたまになめられてしまって、理不尽に理解できないことにあって、シにたくてシにたくて仕方がない夜を一週間くらい続けて絶望しても誰にも言えなくて、でもカウンセラー的には大丈夫って言葉が首を絞めるし、千絵ちゃんは千絵ちゃんはわかっているけれどもいつまでも甘えているだけかもしれなくって、だから、だから、千絵ちゃんは臓器提供意思表示カードに〇をつけて、そのいつかを、夢見て生きている。  


項目全期間(2020/02/22現在)投稿後10日間
叙情性00
前衛性00
可読性00
エンタメ00
技巧00
音韻00
構成00
総合ポイント00
 平均値  中央値 
叙情性00
前衛性00
可読性00
 エンタメ00
技巧00
音韻00
構成00
総合00
閲覧指数:833.6
2020/02/22 16時16分21秒現在
※ポイントを入れるにはログインが必要です
※自作品にはポイントを入れられません。



コメント数(1)
ふじりゅう (2019-07-25):

これは凄くおもしろい。 千絵ちゃんの心境がめちゃくちゃ分かるというのもありますが、まず分量があるのに読みやすいというのが一点。あともうひとつ、シにたくて、が死にたくて、じゃないところが秀逸だなと。なんか切迫した感じはなく、結局千絵ちゃんは今後不器用ながらも生きていくのだろうなと感じるところではありますが、それはひとえに「シにたくて」の死にたくない感が引っ張っていってるのが大きいと思います。 こういった、言葉ひとつの広がりが大きく、かつ読みやすい文は読み解いて楽しいなと感じました。

投稿作品数: 2