わたしはそのとき、『なにか』に期待していた
『なにか』はわたしの心をばくばく刺激していた
乗っている列車の振動はあまり関係がなかった
わざわざ窓側の席に座ったのだ
窓にへばりつきたい、へばりつかせろ、見逃したらどうするんだ
わたしの中にある四十五パーセントの童心が急かす
『なにか』に突き動かされ、暴れ、目も当てられない
だが、そんな焦りも虚しく終わる
『なにか』は、あらわれる気配がないのだから
そんな焦りを他所に
賑やかな車内にはたくさんの乗客がいるのだが
彼らは
談笑し
缶ビールを飲み
眠り
パソコンで作業に集中している
対してわたしは、窓の外を眺めているだけだ
大阪から京都までの長い長い道のりを
かの列車は孤独に加速し続けていく
そんな最中、五十五パーセントの理性が悟す
『なにか』はない
ずうっと窓の外を眺め続けるのは、中学生のおまえには退屈だろう
老婆ならまだしも
おまえは幼い
まだ機会がある
『なにか』は儚い
今あらわれるとは限らない
いつものように趣味に耽ればいいだろう
小説でも、マンガでも、何でもすればいい
そう言っている
両者、意見が割れている
それでもわたしは窓の外、至る所にある屋根の色を見た
三秒で視界にある物は切り替わる
気は抜かない
茶色、黒、青、桃、灰、黒、ソーラーパネル
期待外れの色が視界を埋め尽くしてゆく
こんな色を見るために、時間をどぶに捨てたわたしは馬鹿なのか
諦めようか、いや、諦めてたまるか
時間との勝負だ
勝者は私しか有り得ない
そうなるに決まっている
わたしは目線を窓の外の景色の隅々にキョロキョロ行き渡らせた
わたしの理性は先刻から口無しだ
用無しだ
とっとと出ていけ、と童心が思考の外へ追いやったらしい
わたしは車窓にへばりついた
窓を曇らせるため息、じくじくと痛む赤い指先
窓に吸い寄せられた冷たく凹んだ鼻の先
逃すものか、逃すものか
ある、『なにか』はある
そう信じた
もはや祈りだ
信じる神はいないが
『なにか』があることだけは信じていたかった
そのときだ
『なにか』がうつった
必死になっているわたしの瞳に
心に
感情に
表情に
白があらわれた
あっ、とこぼしたその声を聞き逃すまいとした
雪という『なにか』
作品データ
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作成日時 2025-11-03
コメント日時 2025-11-03
#現代詩
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2025/12/05 20時49分37秒現在
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信仰の問題は難しいのですが、詩の中で語られればマイルドだと思いました。ある何か。それは何なのか。心の中の問題と、外部の何か。あ、あれはと解決されたかのように思えた時点でこの詩は終わります。
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