《烏の弔い》

この街に、やっと晴れが来た。けれど—— 不幸の陽は、静かに顔を出した。その陽が、僕の影を重ねるはじめたとき、心は囲まれ、息は鈍くなる。十八層の牢獄に身を置いても、日差しはなお滲んでいる。天使の羽音でさえ、腐った祈りに聞こえた。墓の前に、哀愁を帯びた花を置いて。赤雲と枯れ葉に、少し語りかけながら、僕は、救いから逃げる準備をしていた。落ちぬ紅葉のように、指先が震える。体は氷のように冷え、呼吸が怖くなる。神よ。もし見ているのなら—— どうか、潔く。その陽を、聖光で、滅してくれ。頼む。 ——— 赤に染まった雲が、空の青さを覆い隠していた。地獄のように。田舎の部屋。広いベッドの上で。電灯の明かりをぼんやりと見つめながら、思いの海に沈んでいた夕方。何かが、突然、記憶の奥に浮かんできた。いつからだったろう。子供の頃——いや中学の頃だ。家の中にいることは、針のむしろのようだった。家族は父と母、僕、そして弟が三人。二十年を経ても、まだ理解できない。そのことで、長い時間、悩んでいた。父はいつも「お金は大事」と言う。それなのに、仕事仲間と風俗に行くたび、見栄のためにお金を払っていた。父に問いかけても、返ってくるのは「社交は大切な課題だ」という空虚な言葉だけ。その声音は、自分自身を聞こうともしない。僕は、その滑稽さを愛せなかった。人というものは、いつもこうだった、答えを持っているのに、霧の中をさまよう。神が人を創ったときの処方、その根にあるのは、矛盾なのかもしれない。 ——天使の視線に狙われているようだった。母は政治家でもないのに、テレビに向かって政党を批評する。「全く、あんたは大学なんて落とすんだろう？」この考えは、夕陽とともに、烏の乾いた笑った声が窓から滲んでいる。僕の目に映るのは、ただの哀れな主婦だけだ。昔の優しい笑顔をしていた母は、いったい何処へ行ったのだろう？心配しても、無力だった。なんか——天使の笑い声を聞こえそう。弟たちは、音楽も本も触れない。食事を部屋へ持ち帰り、挨拶すら失われた。小学生の頃、一緒に外で走っていたあの声は、もう壁の向こうでも聞こえない。いつから変わったのだろう。今はただ空気のようで、僕には何の関心もない。こんなひび割れた関係を修復する術を、僕は持っていなかった。神に問いでも、きっと天使の嘲笑しか返らないだろう。ほら、烏はまた来る、なぜ悲しそうに見えるのだろう？まるで僕のようで…… その瞬間、胸の奥に小さな欠片が再び顔を出した。 ——これはきっと、天使の戯れだった。そして、ふと見た光景。僕がいない間、家族は仲良くしていた。まさか、異物は—— 僕だったのか？考えると、体温が消え、胸が締めつけられ、喉が塞がり、息ができない。電灯は心臓の鼓動に合わせて明滅する。もう、逃げるしかなかった。だから僕は、ほとんど家に帰らない。借りた部屋で暮らしている。壁は薄い。夜ごと、壁の向こうから気配する。足音が耳に触れるたび、それは、悪魔の囁きのように聞こえた。 ——悪魔は、腐った天使なのだろう？孤独と不安に包まれ、プライバシーのない牢獄。この恐怖が、誰が感じているだろう。せめて、誰にも異質な考えを押し付けられない。家族の常識から外れたその思考が、僕という異物を形づくっていた。天使は、救いを携えて降りてくるものだと信じていた。けれど、それは—— 見届けるために、ただそこに立っているだけだった。もし時間を戻せたなら、あの風の強い家で、樹々の囁きと孤独を共有できただろうか。烏は、まだ赤空を旋回している。地面に落ちた影は、僕の輪郭のようで、しかし—— 僕を見下ろしていた。僕は、自分の墓の前に立っていたのだ。

ログインしてコメントを書く