「ちょっとだけ待っててね」
彼女はいつもより少し高いヒールから零した細い素足をちらつかせ、ひょこひょこと廊下の奥へと消えていった。
少し待ってから入ると、整然としたいかにも女らしい室内に、腑抜けた部屋着で水を飲む彼女が佇んでいる。
「なんでさぁ、話しかけてくれんかったの」
いつになく上機嫌でイタズラな、うざったらしい声だった。
「なんの話?」
「飲み会の時。」
「嘘つけ」
「なにがだよ」
もう一度水を口に含み、私の前を素通りして、湿った唇のまま突っ伏した。
「どうすんのさ」
「他の男にもそうやってるんだろ」
「うるさいよ」
木漏れ日に揺れるティーカップが人の指を待つように、彼女の肢体と私の間に、すでに意志の余地はなかった。
それでも、ただ一度だけ、文脈の海から打ち捨てられた彼女の一言だけが、心の底につっかえてしまったことを、私はのちに悔いることになる。
--本当に優しい人はね、大事な人を庇ったりしないの。その人すら傷つける覚悟がある人なの--
白く柔らかい二の腕は私の首筋よりも冷たい。
やがて彼女は人差し指を私の唇に置き、部屋は月の明かりだけを残した。
作品データ
コメント数 : 3
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作成日時 2025-09-17
コメント日時 2025-09-18
#現代詩
#縦書き
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
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| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
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2025/12/05 18時36分06秒現在
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全体的に、よく書けていると思ったのですが、突っ伏した、の辺りとか、描写が正確を欠き、意味が特定できない言葉があったので、直した方がいいと思いました。必然性に従った詩文がいいと思うわたしではあります。比喩に必然性がないと、正確を欠くことになるのでは、と。意志の方向の問題ですね。
0筆の運びが堂に入っている。頼もしさすら感じさせます。 >それでも、ただ一度だけ、文脈の海から打ち捨てられた彼女の一言だけが ...から >--本当に優しい人はね、大事な人を庇ったりしないの。 >その人すら傷つける覚悟がある人なの-- ...ここが肝で、まあ好みなのでしょうが「文脈の海から打ち捨てられた」というほどの もっとはるかに、ごくつまらないセリフがよかった。 これだとちと説教くさいのではないかなと思いました。
0「あなたがもし旅立つその日がいつか来たらそこからふたりで始めよう」とは浜崎あゆみの「Depend on you」ですけど、「旅立った」というのは二人の一方なんでしょうが、とにかくどっちでもいいんですけど、ある日突然、なんのまえぶれもなく一方的に関係が解消されるようなことが起きて、ようするに「ブロック」されるという行為が発生したとして、もはや相手に声を届ける術をもたない。 「...いつか来たらそこからふたりで始めよう」と、それもふざけているのではなく、ほとんど無意識に、でもガチに言えることしたら、わたしの言いたかったような精神にかなり近いかなと。
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