別枠表示
満月のまる
《満月のまる》 はははっ 俺はアッという間に蹴り飛ばされていた 飛んでゆく身体と宙を舞う路地裏のゴミ箱だ がらがっしゃん ゴミ箱が中身をブチ撒けて転がってゆく はははっ 俺を蹴り飛ばした大男はまた声高に笑うと 壊れたパイプ椅子をひょいと手に取った 路地裏の四角い隙間の夜空には満月だ 大男はその満月を背負って歩み寄る 俺はふらつきながらも 転がっていたビール瓶を片手に立ち上がる はははっ 大男はそれを見てまた楽しげに笑いやがった パイプ椅子を振り上げ笑ったままで詰め寄る 俺は大男の顔目掛けて瓶を投げつける 大男はとっさにパイプ椅子で瓶を払い飛ばす 同時に俺は大男の脇を走り抜けた 逃げ切れる! 路地を飛び出す間際に むんずと首根っこを摑まれてしまう はははっ パイプ椅子で思いっ切り殴り飛ばされた 俺は路地の入り口でノビてしまう はははっ 俺の首を太い腕で締め上げる大男だ 酒臭く荒い息と汗に濡れた腕 背中には揺れる満月 息が出来ずにもがいていたら 俺の股間から喇叭(らっぱ)が鳴り響く ぷっぷくぷっぷっぷっーー 大男の目が点になる 息が苦しい俺とて何が起こったかわからない そしてまた喇叭が路地に響き渡るのだった そして じーーー。 俺のズボンのチャックが勝手に降りてゆく ぽんっ そこからレッサーパンダが顔を出した はは? 大男は俺の首から太い腕を解いた レッサーパンダはやがて上半身を出してから 俺のズボンのチャック部分を抜け全身を晒す 身長と同じぐらいのふわふわの尻尾だ そして路地にぴょんと降り立つと ん〜〜〜〜と背伸びをする ごそごそ 続いてまたレッサーパンダが飛び出してくる 何匹も何匹もである はははっ 大男は俺を突き放すのだった もはや俺のコトなど眼中にない 目がきらきらしていやがる そしてその震える太い腕で 一匹のレッサーパンダを抱き上げる きゅ? 最初は途惑っていたが やがて大男に頬擦りするレッサーパンダだ 大男は大喜びである 路地にぺたんと座り込むと レッサーパンダを代わる代わる抱きしめる はははっ とにかく夢見る少女のように ますます瞳を輝かせてご満悦だ そして俺は這々の体で路地から抜け出した 裂けた服やらチャック全開のズボンやら 首に残る赤黒い痣やら鼻血やら そんなのにはかまっていられない 街の大通りを駆け抜ける 肩で息をつきつつ電信柱にもたれ掛かると 恐る恐る振り返るが大男の姿はない 逃げおおせた! 安堵のあまりへなへなと座り込んでしまう ぱしゃ! フラッシュが光る 身体中の体毛が逆立つ ぎゃっと叫んで飛び上がりまた振り返る ぱしゃぱしゃとフラッシュが瞬き続ける スマホをかざす人々だ あのふわふわはなんだい? ぱしゃ! なんて可愛らしいの? ぱしゃぱしゃ! フラッシュがまぶしくて眉の上に手をかざす きゅ? 目の前でレッサーパンダが一匹俺と同じく 眉の上に前足をかざして 二本足で立っている 俺が泡食って逃げたのは言う間でもない 俺は滅茶苦茶走り廻って なんとか俺のアパートに帰り着く アパートの扉を開けて部屋に飛び込んだ 俺は扉を背にずるずると滑り落ちるが 隣では同じ格好のレッサーパンダであった 俺とレッサーパンダの荒い呼吸が響きあう 俺はようやく立ち上がると 冷蔵庫から瓶ビールを取り出し喇叭呑みする ようやく長い長い溜息だ 鼻をかんだら鼻血の塊がごそっと抜け落ちる 一瓶を呑み干した なんとも人心地がつく アルコールが身体も心も柔らかくしてゆく もう一瓶を咥える きゅう〜〜 レッサーパンダが物欲しそうに 俺を見上げている スープ皿にビールを注ぎ入れると レッサーパンダはさっさと呑み干した 次はなみなみと注ぎ入れる でもレッサーパンダはまた呑み干すのだ そしてしばらくしたら 皿に顔を突っ込んで高鼾(たかいびき)である 一丁前に酔っていやがるのだ 俺はそのレッサーパンダを飼うコトにした 「まる」と名付けた 明るい満月だったからだ
満月のまる ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 315.6
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2025-09-11
コメント日時 2025-10-27
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


面白く読ませていただきました。 昔、ありましたよね。 全日本プロレスとかで パイプ椅子持ち上げて振り下ろすやつ
0波止場様 ヨマれたか! はい、大男のモデルはタイガー・ジェット・シン氏です。
0