毒蛾とメルヘン
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海風とパティシエ
月光に、海原ゆらゆら、深夜２時。海風に白のカーディガンを巻き上げられて、まるで風に吹かれる蝋の火ね。なんて私は思った。 ハハッ、ちょっぴり自分に、酔っちゃってるかな？でも私、自分で言うのもなんだけど、やさしいと思うんだ。あの日々の、あなたにとってだって。 "うん、もちろん、そうだともさ" っていうのは、今日端正込めて作ったケーキが、そこはやっぱり定番の（？）シャインマスカットケーキが、あの透き通った黄緑の声で、クールな少年のように応えてくれた声のこと。 なんて言うとあなたは引くかな（笑）でもホント、私、魂込めて仕事してるの。いまの私にとって、パティシエの仕事はね、小さなものたちを抱くことなんだ。 その朝も私は、海風に頬を撫でられながらパティスリーへと出社した。そしてあなたは、新緑の煌めきそのもののように私の前に現れた。 私は馬車のように、あなたのキラキラした瞳に連れられて街路を巡った。ねぇどうして、街の街路樹は哀しいくらいに凛々しく見えたり、するのかな？ほんのりとやつれた背中であなたは私を案内していった。その機敏な手さばきはまるで、決戦を近い日に控えた騎士のようだと私は思った。 ねぇ覚えてる？"君は、まるで内気ながらも健気なセイウチのようだ"なんてあなたのコトバに私はもう、発作のようにあなたに身を委ねたくなったから、私はリボン付き量産型ファッションに身を包んであなたの胸へとしなだれたんだよ。 そうして雨音を聴きながら見た、女の夢。そうして二人で憩った、アパートの前の公園の夏蔭。 私はたしかに秋という季節に浸っていた。澄んだ青の気高い空が胸に広大に広がっていた。和やかな茶の葉が2、3枚アスファルトに落ちていて、そのうちの1枚は私なんだ。 ねぇ"夏風"って、なんだかほんのりと哀しい響きをしているような気がしない？私が言いたいのはね、つまり、夏だって秋のようだと思えば秋のようになっちゃうってことで、もっと言えば、実際には秋じゃないってことがかえって秋の侘しさだとか、あるいは厳かな冬の夢にさえときに私たちを誘うだろうっていう、そのことなの。夏のなかに、そのさなかに、秋も冬もみんなあるのよ。全然冷たいまでは行ってなかったけれど、ほんのりと涼しげな肌触りから私、ふわりと淡い時空を飛んで、未だ訪れぬ明日の秋へと降り立っていたの。 そのアスファルトはなだらかな丘のてっぺん近くにあって、坂を下るように風がサラリと流れていった。 てっぺんに行くと海が見えることを、私は知っていた。それでも私はてっぺんに行きたいとは思わなかった。 また似たようなこと言うんだけど、ねぇ、"海風"っていう言葉だって同じように、あるいはもっと哀しげな響きをしているように、思わない？ねぇ抱かれることって哀しいことよ。抱いてくれる人のように、海もいつかはいなくなっちゃうのだと思うと。 ごめんなさい私ね、母なる海に仄かに、あくまで仄かに抱かれてるように感じながら、でもその抱かれてる感をおおっぴらには認めずに、"えっ？抱いてくれたんだ？それはそれはありがとう"ってそんな、ちょっと小生意気なスタンスの、強がっちゃってる感溢れる独身娘でいたかったんだ。そしてケーキたちには、小さな小さなケーキたちには思いっきり母親して、さ。 何が言いたいかっていうとね、私、あなたといると幸せな女になっちゃうの（！）もちろんあなたも、いつかはこの星からいなくなる人。でも当たり前だけれど、あなたは会う度に目の前にいた。たしかな重さで胸の前に。 あなたとの日々を思い出すと、それこそ自分が動物だったように思い出されます。私は健気なセイウチであり、やはり健気で儚い薄緑の蛇であり、そうしてあなたの逞しい背中に、また雫のようでもあるよに付き従ってたんだっていう、キュンとなるこの感じ（笑）ねぇでも私、あなたに抱かれすぎちゃってたの。 私、夏にだって、散り桜がショートケーキのイチゴにキスするよな夢を、ふわふわほんのり哀しむよにして日々を食んでいきたかったんだ。日々っていうものが、水彩でいかようにも描いていける白い画用紙のようであってほしかったの。薄い薄い水色の風だけに、そっと頬を撫でられながら、感謝してあげないこともなくってよ？って、ゆるりとツンツンした女画家のよに、切なげに日々を描いていきたいなあ、って（笑）。 明日も私は、相も変わらず生クリームを織り続けます。やはり海に抱かれた小さな町の、ひっそりとした片隅で一人、思う存分母しながら。 それでも私は、あなたのなかではきっといつまでもセイウチのまま。そうだろうことがなんだか不思議で、うれしいんです。胸の底が夢のよう。 お元気で。
海風とパティシエ ポイントセクション
作品データ
Ｐ Ｖ 数 ： 450.3
お気に入り数： 0
投票数 ： 1
ポイント数 ： 0
作成日時 2025-06-18
コメント日時 2025-06-18
| 項目 | 全期間(2025/12/06現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
こんにちは、 >>君は、まるで内気ながらも健気なセイウチのようだ 可愛らしいですね。セイウチ、でっかいけど内気なセイウチって可愛いな。
1ありがとうございます（！）とにかく可愛いさを演出したく、海獣さんを呼び出した次第です（笑）ジュゴンでもオットセイでもなくセイウチなのは、語感ゆえです。 ただ読者によっては唐突に感じられたかもしれないというのが一つと、ラスト近くで蛇と等値するところが、それこそ大きな動物と小さな動物で逆じゃね？と思われるリスクもありましたが、勢いで描いちゃいました（笑） 無垢を通じて繋がっているし、イメージとしてもともに、あどけなく付いていくのが絵になる存在ですし、あとは、どこか幼さの残る女性ゆえの"乱雑さ"の表現でもあり…なんていうのは、さすがにご都合主義的でしょうか（苦笑） それを言えば、そもそもか弱い女の子に大きめの動物であるセイウチという喩え自体が滑っているとも言えるかもしれません。しかしそれは、しっかり読まれる方には、流れるような文体（と信じたいのですが笑）でありながら、その実ガチガチに構成していることが分かるゆえのある種の息苦しさから、作品世界をやわらかにするために、また彼女の胸中をほんわかとしたものだと受け取ってもらうため（ひいてはそれが読み手のほんわかにも繋がり得る）に、是が非でも必要な「突飛さ」だったのだと、書き終えたいま思っています。 そんな一番のキーポイントをお褒めいただけ、ほんとうに良かったです♪♪
1ご返事ありがとうございます。 ほんとに主観ですが、短篇映画とか、アニメーション、絵本あたりにしたら映えそうだなと感じました。 柔らかい世界観で、ユニークな設定なので、子供受けもいいんじゃないかな、なんて。素敵だとおもいます。！
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