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たばこをめぐる断章   

湯煙 
作成日時 2017-11-14
コメント日時 2017-12-15

 

 たばこを吸う。    ───代替不可能な存在  煙をくゆらせる。     *  朝。  白い陶器の灰皿に死を見る。  海に沈静すると燻る蒼白の焔があらわれる。  新たな一本から天を昇って漂う。  一日が始まる。     *  25年前。マイルドセブンは230円だった。  現在はメビウスと名称を変えて440円で販売されている。種類も豊富になった。  昨今は一箱を1000円にしようという案が浮上しているという。     *  ★★★★★★★14                  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━    喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります。 妊娠中の喫煙は、胎児の発育障害や早産の原因の一つとなります。 (詳細については、厚生労働省のホームページをご参照ください。) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━   タール14mg ニコチン1.2mg            sevenstars 460円     *  高校へ進学してまだ日の浅い16歳のある日の朝。なぜか私はテーブルの上に置かれていたハイライトを一箱くすね、学生鞄のなかに入れ登校した。休み時間に教室の後ろで級友に取り出して見せていると、廊下を通りがかった担任の教師と扉の窓越しに見合った。  指示された別室にて風紀を担当していた中年の体育教師の男が詰問をし、私の頭をはたいた。数日後呼び出された母と一緒に学校へ向かった。そして一週間の停学処分が下された。中間試験のうち三教科分の追試を受けた。帰り道。私を励まそうとしたのか、明るく振る舞いながらも母は泣いているようだった。  留年はまぬがれた。三年で卒業をし私は学校を去った。    19歳。買ってきたたばこに百円ライターで火を着けた。思っていたよりもうすく、不味くも美味しくもない無味乾燥だった。舌に乗せ数秒間もぐもぐとして口を開けると、まんまるく白いかたまりをしたものがぽわんと飛び出して間抜けに空を漂い、崩れた。私の初めての一本は咳き込んだりすることもなくあっけなかった。     *  どうして止めないか? 止められないのか?  病気、遺伝、環境や習慣等。さまざまに言われるもののはっきりしない。  そもそも止める意志らしきものが芽生えないが、これは何だろうか。     *   メンソール系のたばこは今ではバラエティーに富んだ人気商品の一つとなっているが、かつて吸うとインポテンツになるという噂が流れていた。しかしインポテンツになったと聞いたことなど一度もなかった。今日も薄荷や柑橘などの味と香りをこめなに食わぬ顔で颯爽と店頭に降り立つ。     *  見舞いに行った病室で、脳溢血となり寝たきりの状態であった父の右腕がベッドの上で天に伸びて空を掻いた。そのまましばらく親指と人差し指と中指の三本をひらひらとさせた。父はマイルドセブンを求めて半年後に、大小の軽石を置き土産にして逝った。     *    Luckies 10                     ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━     喫煙の際には、周りの人の迷惑にならないように注意しましょう。   ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  タール10mg ニコチン0.9mg           LUCKY STRIKE 400円     *  公園の片隅でよくたばこを吸った 青白く冷ややかな石膏の空に紫煙をくゆらせて 思い思いにたわいもない話をくりかえした 交わす言葉の行方など気にせず灰を叩き落としちぢこまる身を寄せた 靴底に素早く擦りつけると赤色に塗り込められた灰皿代わりの一斗缶のなかへ放り かじかむ両手にながい息を吹きかけて 背を丸めて公園を後にした からからと音を立ててころがる落葉 川面に漂い散り散りになって     *  公共の場でのマナーの徹底や禁煙化、喫煙ルームの設置が着々と進んでいる。  路上喫煙やポイ捨て行為は厳しく監視され、カウントされ、罰金が課せられる。  この肩身はたしかに日々狭くなる一方である、と思う。     *  「 落ちましたよ 」 「 いや、捨てたんだ 」  吸い込む。そして、吐き出す。  紫煙をくゆらせながら燃焼する。  灰を見つめる。                       」


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まりも (2017-11-16):

煙草を吸わないので、初めて吸った時、の感覚というのか、印象の描写が面白かったです。 タブーを犯すような、思い切って「一線」を越えた後の、なんとなく間が抜けたような、味気ない感じ。 もっと刺激的な何か、を、期待していたのでしょうね。 父が昔、煙草を吸っていて・・・普段はその煙がいやで仕方なかったのに、風邪を引いた時は、なぜかその匂いが香ばしくて好きでした。いつのまにか煙草を辞めていたのに、母も私も気づかず・・・お正月に祖母の家で灰皿を出された時、いや、もうやめたので、と父が答え母が「いつやめたの?」と聞き返したとたんに、祖母(母方の祖母でしたが)に「なにやってんだい、気づかなかったのかい!」といきなり怒鳴られた時には、かなり驚きました。  朝。  白い陶器の灰皿に死を見る。  海に沈静すると燻る蒼白の焔があらわれる。  新たな一本から天を昇って漂う。  一日が始まる。  公園の片隅でよくたばこを吸った  青白く冷ややかな石膏の空に紫煙をくゆらせて 思い思いにたわいもない話をくりかえした   交わす言葉の行方など気にせず灰を叩き落としちぢこまる身を寄せた   靴底に素早く擦りつけると赤色に塗り込められた灰皿代わりの一斗缶のなかへ放り   かじかむ両手にながい息を吹きかけて 背を丸めて公園を後にした   からからと音を立ててころがる落葉 川面に漂い散り散りになって  吸い込む。そして、吐き出す。  紫煙をくゆらせながら燃焼する。  灰を見つめる。 今、抜き出した「詩」の部分を、散文が繋いでいる。その間に、コラージュのように煙草の脇に添えられた文言が貼りつけられている、という構成が面白いと思いました。 こんなに文面が異なるとは知りませんでした。タールやニコチンの分量も。

湯煙 (2017-11-18):

まりもさんありがとうございます。そうですね、刺激を求めていたのもあるかと思いますが、そのあたりはどうも明確ではなかったような気がします。初めてのとありますが、肺へ吸い込んだりはしなかったんですね。ですので味もどこか薄くてという。タブーに触れてスリル感といったことも特になかったかと。親や教師らが私が在学中に既に喫煙をしているという、そのように考えているようだと感じ、実際は在学中にはまったく喫煙などはしなかったのだと、そんな単純なエピソードになりますね ^^;。ですからこのことこそ正になんてことない味気もくそもなくオチる一話です。 一応今でも喫煙はしますが、やはり他人から流れてくる紫煙は私も嫌なんですね。マナーが良くないのも嫌です。害以前に煙たいだけですから。ただ喫煙をしている最中はそうはならないみたいなんです。質がよくない現象といえますね(笑。類は友を呼ぶ、そんな感じとなるんでしょうか、わかりませんが。私の父は倒れるまで普通に愛煙していました。ですから伸ばした手はきっと煙草を欲してなんだろうと。真実はわかりませんが。お風邪を引いたときに香ばしい匂いが好きになるですか。面白いですね。確かに香ばしく匂うときもあります。匂いの記憶は突然に遠い過去の風景を鮮やかに甦らせる、そんな働きがあるようです。 作品の構造はタイトルのみで見せてしまっている、無理矢理感があるかと。やはり一つの散文またはいくつかの短詩のみといった、そうしたものにすべきかなとはあらためて思いました。パッケージにあるcaution警告文はいくつかパターンがありますが、JT製品は皆同一のものかと。時折文面の内容に変化があり、昔と比較すればやはりかなり強い調子のものにはなってきているように思います。

5or6(ゴロちゃん。) (2017-11-19):

タバコ=危険な大人、カッコいい大人、マンダム。 そんなイメージがあった90年代、自分はセブンスターメンソールを吸いながら街を彷徨っていました。夢を追いかけるふりをしてずっと自分自身からにげていたのかもしれない、いや、逃げていたんでしょう。そして現実は地元に戻り、普通の生活をしています。銘柄、ニコチン、タール、そのものが時代を切り抜いているような言葉ですね、その中での作者の心情がタバコの煙のように沁みました。

湯煙 (2017-11-22):

5or6さん。ありがとうございます。マンダムは懐かしい。そうですね、私がたばこをくすねて登校をしたのも背伸びをしてみせたいという無意識が働いたのかと、今ふと思いました。90年代から00年代は私もさまよいばかりだったように思います。あの頃に比べ本数も半分に減りましたが、年齢的なものもあるんでしょうか、仕事に健康にとやはり気にかけることが一番になっていますね。

百均@B-REVIEW ON/ (2017-12-09):

最近、寺山修司「煙草の益」って、話を読んだのですが、それは「ぼくの初めて吸った煙草の味の感想」をする話なんですけどね。その感想の話自体が、一つの人生みたいな物を内包して語られる訳です。それが創作か現実かはともかくとして、本作の場合は、煙草吸ったっていいこと一つもないし、なかったのに吸っているという所。そこに延々と焦点が当てられている所で、その中に語り手の人生があるという事です。逆に言ってしまえば煙草吸ったって一つもいいことないってずっと書いているのに煙草のネガキャンとして全く聞こえてこないという逆説がここにあるのかなと思いました。 >どうして止めないか? 止められないのか? >病気、遺伝、環境や習慣等。さまざまに言われるもののはっきりしない。 >そもそも止める意志らしきものが芽生えないが、これは何だろうか。 意志の向こう側にある物を言葉を連ねる事によって浮き上がらせようとしていく、あるいは一つ一つ検証して潰していった先に残る物を期待しているかのようなまなざし。 >灰を見つめる。 >  >          >          」 この空白の味が知りたいのかなぁと思います。そういう意味で、ある種、結論の(が)見えない作品になっている風にも感じます。しかしながら、ここが見たいけど見えない訳ですね。そのための前振りはすべて振られているといっても過言ではない。という所に、限界があるのかもしれないですね。

湯煙 (2017-12-15):

hyakkinnさん。ありがとうございます。遅くなり失礼しました。 煙草を吸いはじめてどれほど経つのか、そのときどきについてスナップしたものを並置、そんな感じになりますか。coffee&cigarettesではないですが、もう少しニコチンやカフェインを摂取したハイで洒落た、そんなものにすべきかと思ったりしますが。 警告としてのネガティブキャンペーンとの葛藤、そのあたりが微妙です。たかが嗜好品されど嗜好品というところでしょうか。 最後のオチは様々ですが空箱か否か?といった感じですか。煙に巻くのでも目にしみるわけでもないですが、掴みどころなきものを掴むにしたかったのかと、あらためて気づかされたりします。

花緒 (2017-12-15):

湯煙さん、前月の大賞作品の件なのですが、面白いぞ現代詩アカウントの方に転載しても良いですか?ツイッターにDMさせて頂きましたので確認くださいませ。


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