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老いる
なんでもない道で何度も転ぶ 見えない段差に何度も躓く 総重量51kgの器に21gの内容量 生きるということは21gを太らせることなのだろう 私はずっと待っている 何を待っているかは分からない 金木犀が香るたび 身に覚えのないノスタルジアが疼き出す 誰にも見つからないように隠した宝物はいつも 知らぬ間に 夏の海のように消えている それじゃあ宝探しの意味ってなに? 独りごちた言葉さえも消えていく 砂を手で掬ったとて 強く握れば握るほど あっけなく指の隙間からこぼれ落ちてしまうから 掬うこと自体が怖くなる 無に戻る未来を想像して怖気付く 強くなる それは鈍るということ 掌の皮は厚くなり 視力は衰え 街のモスキート音が聞こえなくなるということ 玻璃の器に触れることを厭い 頭上に浮かぶ月を忘れ 落ち葉の旋律を見失うということ 12色入りの色鉛筆を持て余す日が いつかやって来るのだろう 見えていたはずのものが見えなくなる日も いつか 秋晴れの朝の空気のようにかさかさとした冷たい予感が 駅前の大きなイチョウの木の下でじっと私を待っている 古写真の中で赤子を腕に抱き微笑む母の顔と 彼女の年齢に追いついた娘の顔はそっくりで なぜだろう ありもしない記憶を未来に置き去りにした気分だ 無遠慮に保存された若さと 先延ばしにされた死の額縁に 大人しく収まる覚悟が決まらない この意気地なしの心を人が罪と呼ぶならば 私はきっと 生まれながらの罪人だ それならそれで構わない 罪を抱きしめて生きていく この首筋にはまだ 青い香りが残っている
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老いる ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 319.3
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2025-11-15
コメント日時 2025-11-15
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


「若さ」からいつかは降りないといけない。みじめに「若さ」に固持するのは醜悪なことです。しかし老いることは頓珍漢になることも意味するので、どっちも嫌ですね。 >12色入りの色鉛筆を持て余す日が >いつかやって来るのだろう このあたり、すごく落ちついた認識です。 若さが世界の解像度を上げ続ける営みであるならば、たいして、老いとはその行為に伴うコストに気づき、終わりなき無限コミットの螺旋から自ら降りることへの受容でもある(...だから同時に、ズレた老害の頓珍漢になるということもであるのだが) 難しいですね。たまに自分は皺くちゃの猿みたいな老人になるのもいいのかもな?という気もするのですけど。 >この意気地なしの心を人が罪と呼ぶならば >私はきっと 生まれながらの罪人だ それでいいと思いますよね。今、善人は生きづらい。善人の顔を久しく見ていない。
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