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籠と野良猫
時間は、荒唐なことを当たり前に変えた。 そして僕らも、その一部になった。 ある真っ黒な夜に、夢を見ていた。 遠い昔、僕は野良猫だった。 人間が怖くて、信じられなくても、 毎日、自由に庇を越えるのは楽しかった。 そのまま長い時間が過ぎた。 ある日、猫は知らない人と出会った。 優しそうな人だった。 いつも猫缶を持ってきた。 日毎夜毎、 猫の警戒心は少しずつ薄れていった。 「家に来るかい? 私が君を飼ってあげる。」 あの人はそう言いながら、 うららかな太陽みたいに笑った。 ――野良猫が消えた。家猫になった。 最初、あの人はとても根気強くて、 コップを落として割っても、 「よしよし、今度はダメよ」って、 優しく囁いてくれた。 その声は、春の雨みたいに穏やかだった。 その時、ここは楽園だと思った。 けれど、いつからだろう。 皿に入った餌は冷たく、 呼びかける声には少し乾いた響きが混じっていた。 あの人の目は、どこか遠くを見ていた。 猫はその理由を知らなかった。 いや、とっくに気づいたでしょう? ただ直面する勇気がない。 やがて、狭い木の籠が用意された。 外の風が、届かなくなる。 季節が流れ、花が零れた。 猫もひび割れている。 たとえ餌は蛆が湧いても、 まだ香りをしている。 籠は白蟻に腐らされても、 逃げる気もない。 あの人は新しい籠を用意しない。 ただ、時々覗き込みながら、 「どうせ、俺がいなきゃ生きていけない」 そんな風に呟う。 猫は、流浪の日々に戻りたくても、 現実には、タイムマシンなんてない。 叫びも、涙も、外には届かない。 ただ、自分の愚かさに笑って、 萎れた愛を抱きしめている。 目を覚ますと、 窓の外で猫が鳴いていた。 どちらが籠の中なのか、 もう、わからなかった。
籠と野良猫 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 275.0
お気に入り数: 1
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2025-10-23
コメント日時 2025-10-23
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


童話のような語り口ですが、非常にレベルの高い詩だと思います。話の展開に無理がなく、言葉も丁寧です。猫の気持ちになると、寂しいような怖いような気がします。嬉しさがあったからこそ、そこからの悲劇に、余計に悲しさが増します。人間と猫が、分かり合うというのは、どういうことなんでしょうか。猫の方からの働きかけは、ほぼ無理なので、人間の側に責任があります。
1居心地の良さを言っているのかもしれませんね、どちらが籠の中なのか、もう、分からなかったと言うフレーズは。
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