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初秋
初秋の空の入道雲を見ていた。 入道雲と言えば、夏の入道雲より 秋の入道雲の方がすぐに思い浮かんだ。 夏の入道雲はただ白くて威圧的だけど 秋の入道雲は少し褐色で いつも黄昏れていた。 そして遠い空の上で 誰かを探していて、途方に暮れていた。 いつも何かに迷っていて 疲れて、なす術が無くて 何も無い彼方を眺めながら、 泣くことさえ出来ず ずっとその場所で、動けずに立ち尽くしていた。 陽の傾きの中を移ろううちに、夜の中に埋もれて行き やがて闇に溶ける様に消えて行った。 そしてまた別の日に 気が付くと遠くの空で黄昏れていた。 ずっとそんな事を繰り返していた。 いつも通る道の田園風景の中で、 稲穂が風に揺れていて 静かな音を立てて波打っていた。 陽の光が緑色の波の中で戯れるように踊っていた。 光と波がゆっくりと時の流れを刻み続け 生成する命の営みが季節の中で色を深めていった。 春から夏にかけて、波は 命の躍動を静かに有りの儘に語り 風にのせて賛美歌と子守唄を奏で続け 揺り籠のように一面を優しく揺らした。 そこからいくつもの命が次々と飛び立ち 無限の色彩に更に彩りを加え どこまでも果てしなく広がってゆき 生きとし生けるもの全てを包み込んだ。 やがて実りの時期を迎えると 一面の波は最後に黄金色の光を放ち そして、僅かな稲わらと土塊を残し しばしの眠りに就いた。 時々白鷺が 何も無い土塊の上に舞い降りてしばらく佇み また翼を広げ舞い上がり、空の彼方へ消えて行った。 真っ白な無垢な魂が天に帰ってゆくようだった。 目に見える景色は少しずつ色を変えてゆく。 いつの間にか並木道を覆う街路樹の葉が落ち 夏には無かった空がその上に広がっていた。 空の色は少し陰り、変わり始めていた。 枯れた欅の梢が届かない空の彼方に手を伸ばし続け そのまま動けずに風に吹かれていた。 その姿が僕の中に何を語りかけているのか 今でも僕はまだ分からない。 日々はこうして時を重ね、時は通り過ぎ 喜びと悲しみと終わりと始まりがこぼれ落ち、道端に降り積もり それぞれの季節が深まるように 人々の日々の歩みもその先へと導かれてゆく。 そしてその先が本当に、季節の移り変わりのように 自然で疑いのない物なのか 分からない儘、また一年が積み重なってゆく。
初秋 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 360.2
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2025-09-15
コメント日時 2025-09-16
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


入道雲と稲穂の対比が美しい。 切なさと生命力が同居している。
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