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矢車草
私が一番好きな花に喩えたら 明後日が期限の書類に印鑑をついて 雨が上がった後の虹の橋を渡り 世間ではそれを死んだと言ったりする 恋人が希死念慮を訴えるという毎日が ストレス強度で言うとⅢくらいなのかしら 自分のせいで死んだ夢を見る毎日を 抑うつ状態とカルテに書かれるのかしら どうして私だけお弁当に梅干しをいれたり 洗濯物をきれいに折り畳んだり 使いやすいように食器を片付けたり 特売のラーメンを買ったりしちゃいけないの 別に誰が止めたわけでもないとか そんな慰めで何が解決するの 夢も希望も叶えるために見るの 現実にならなければただの地獄でしかない この苦しみは本来の状態に戻れないせい 生きたいのに死ぬかもしれないせい 生きたいのに死ななければならないせい そうであると分かっていてもう戻れないのに あの日に帰りたい、とわたしたちは願う そこにいるのがわたしたちではもうないことも 分かっていながら思う、何度でも繰り返し その日の前の夜に帰ることが出来るはずなのだと 取り返しがつかないことを知っている子供は 子供とは呼べないのかもしれない 仰向けで見た青空に光る太陽の眩しさ 誰一人本当の私なんて知ろうともしなくて 食べやすい大きさにちぎった絶望を 空虚で絞った草の乳に浸して食べる 私は相変わらずあなたのことが好きで 私は相変わらずひどく青褪めている 虹の橋を渡るのは何も怖くないのだけど 君をこんな世界に置いて旅立つのは悲しい とてもくたびれている君の背中にも 翼が生えていたらな、とまさぐってみる 何もないことだけ 私と違うことだけ 翼が生えている人がいないわけじゃないのに 解るんだ いつものように従業員入口を潜り 決まった歩数で席まで歩き 当たり前のように同僚に挨拶をして 本当にそれだけだったんです、とゴシップになり 忘れるわけにはいかないと誰かが言った 生きていたい訳じゃなくても 忘れるわけにはいかないと誰かが言った だから生きていて欲しいんだろうか ありとあらゆる継ぎをあてているうちに まるで鱗のようになってしまった身体を 丸めてあなたの帰りを待っている 生きて欲しいなんて二度と言わないから 戻ってきて
矢車草 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 541.8
お気に入り数: 1
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2025-09-05
コメント日時 2025-09-07
| 項目 | 全期間(2025/12/05現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文


よかった。慰められた。ありがとうございます。詩の価値とはこういうパワーを持つこと。鱗のくだりの例えがうまい。
0有り難うございます。最近読書が出来る程度に落ち着いてきました。
0「あなた」の不在が、大きな位置を占めていますね。毎日に押しつぶされそうになり、すべての毎日の意味であった「あなた」がいないということ。痛切なる終わりが、提示されます。ぎりぎりまで自己を晒して、不在を取り戻そうとすること。胸が痛みます。
0いないことを忘れてしまうのが怖いというのはありますよね。気が付いたら二人分の食事を作っている。いえ、この投稿は私の創作なので、心配はいらないです。未来に死ぬかも知れなかったあなたを今助けたい、SFですかね。
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