殺戮の時代
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『火砕流』
「わからないんです 僕には」 「本当に僕なんですかね？」 男は静かに微笑んだ 部屋には斜めに陽射しが射し込んで 男の胸元辺りを暖めている 白いYシャツのボタンが 一つ目を残してきちんと留められているのが その鼻筋の通った端整な顔立ちを 余計に爽やかに見せていた とても穏やかな時が流れている 男はふっと視線を上げると 私の後に据えられた 窓の外に広がる空を見やって言った 「もう、春の色ですね。」 瞳が綺麗だった 私は 思わず見とれている自分に気づくと 慌てて机の上に広げられている資料に目を移した 閑静な住宅街を焼け野原にしている 仕事とはいえ その人の背景を知って良かった と思えることは殆ど無かった いつも目眩を覚え 自分の人生の選択が間違っていたのではないか？ と自問自答を繰り返す 私は資料から導きだした答えを 確認するように読み上げた これは五月蝿いので要らないでしょう と、 口を取られた 見抜かないで下さい と、 目も取られた 言うことを聞いてくれないから と、 耳も取られた こちらの思いをかぎつけられるので と、 鼻も取られた 手を出さないでね と、 手を取られた 先に行かないでよ と、 足も取られた そしてそれは とうとうのっぺらぼうの 石になった 柔らかかったものは 石の中に閉じ込められ どんどんどんどん凝縮して 硬く硬く縮まって縮まって 熱い熱い 真っ赤な真っ赤な マグマになった 誰も知らない 真っ白い 意志の中の 真っ赤なマグマ それが アナタ です 男は 俯き加減で聞いていたが 私の 「辛かったでしょう」 という一言で 堰を切ったように肩を震わせて泣き始めた 「あぁ。」 と、 私の口から思わず溜め息が出たとき 私はやっと異変に気づいた 男は 笑っているのだった 私はもう一度 「あぁ。」 と溜め息をついた 男は顔を上げると また穏やかな顔になって言った 「わからないんです 僕には」 「本当に僕なんですかね？」 私の中で また何かが壊れる音がして 自分のやるべきことが見えてきた 今夜こそ 辞表を書こう
『火砕流』 ポイントセクション
作品データ
Ｐ Ｖ 数 ： 797.5
お気に入り数： 0
投票数 ： 0
ポイント数 ： 0
作成日時 2018-03-15
コメント日時 2018-03-24
| 項目 | 全期間(2024/04/26現在) | 投稿後10日間 |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 | |
|---|---|---|
| 叙情性 | 0 | 0 |
| 前衛性 | 0 | 0 |
| 可読性 | 0 | 0 |
| エンタメ | 0 | 0 |
| 技巧 | 0 | 0 |
| 音韻 | 0 | 0 |
| 構成 | 0 | 0 |
| 総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
情景描写の小説的な描写の部分と、寓意を効かせた寓話の部分を組み合わせている作品ですね。容疑者を尋問しているような情景を想像しながら読みましたが（設定に関しては、誤読かもしれません）容疑者に感情移入し、共感してしまう尋問官の苦悩、を描いているような気がしました。 読むときの間合いや、時間経過を示すための行分けなのでしょうか。全体に均等な行分けが施されているのですが、前後の小説的な部分は散文体にして、中央部分を行分けにすると、寓話的な部分の畳みかけていく緊張感が際立つような気がしました。
0まりもさん、気がつけば、また真夜中の返信になってしまいました！ 今回も、丁寧に読み解いて頂き、具体的なアドバイスまでお寄せ頂いたこと、嬉しく思います。 まりもさんの講評は、いつもどの作品に対しても敬意を持って向き合って下さっている誠実で、真っ直ぐな姿勢を感じます。ありがたいです！ それを感じながら、なかなか返信出来ないという、困った性分で申し訳ございません。汗。 ところで、設定に関する件ですが、捉え方、誤読ではありません。私、大事な(自分としては、ですが)一行を飛ばしていたのです！汗。 先程修正して頂けたので、少し流れが見えて来たかもしれませんが。 どの箇所か、お分かりになられるかしら？もし、気づいて下さったとしたら、大変嬉しいです。 シチュエーションは、心理捜査官が、尋問室で容疑者と相対している、という場面です。 行分けの件ですが、自然に気がつくとあの形になっていたので、矢張り、詠みを意識しての流れかもしれませんし、仰られる時間経過によるものかもしれませんが、自分としては、あくまで淡々と、裏に大きな問題や闇等潜んでいませんよ、という感じで進んで行く様子を描きたかったように思います。 これはどこにでもいる男で(或いは女で)、もしかしたら表出していないだけで、私たちの中にも起こりうる事のように思っています。だからこそ悲しいし、恐ろしい、触れたくない世界、という感じで。 ですが、それなら尚更、まりもさんのアドバイス 前後の小説的な部分は散文体にして、中央部分を行分けにすると、寓話的な部分の畳みかけていく緊張感が際立つような気がしました。 は、作品をよりインパクトの強い、際立つものにしてくれるのかもしれません。一度、手元で手直ししてみますね。 それから、もう一ヶ所、訂正して頂いたところが有ります。 ここは伝えておきますね。 心理捜査官が、男の内面に触れていく最後の方の、 誰も知らない 真っ白な 石の中の➡こちらを 意志の中の に変えてもらいました。 また、違った読後感を、感じでもらえると嬉しいです。 いつも学びを与えて下さる講評を、本当にありがとうございました！
0北さん、お読み頂き、ありがとうございます！！ 返信が大変遅くなってしまい申し訳ありません！ しかも真夜中の返信で！ 真っ赤な真っ赤なマグロ ですか。(^_^;) 何とお返ししたらよいのか。。 てすが、 と、 という言葉が 説明的で惜しいことになっている、 という指摘は、なるほど！ と思いました！ 私としては、 シチュエーションとして、心理捜査官が男に、一つ一つ確認していく作業として、 と、 が必要だった訳ですが、確かに「詩」としてのあり方からいくと、無い方が流れとしても自然で洗練されて、塞き止める感じもないのかもしれませんね。 一度、試してみますね。 お読み頂き、本当にありがとうございました！！ 今後とも、よろしくお願いいたします。
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