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地下鉄   

沙一 
作成日時 2017-11-18
コメント日時 2017-11-25

 

駅の階段を地下へ降りていくと、ホームの両端に、別々の行き先の列車が滑り込んでくる。のぼりとくだり。いまこの場所ではないところに向かうのなら、どちらも同じことだろう。 僕が列車に乗り込んだとき、僕の頭の中を占めていた観念は、目的地のことではなく、さらさらと落ちていく砂時計のことだった。8の字型のガラス容器に砂が入っており、砂は下に向かって落ちる。その砂の落下を、《時》と云う。容器を上下反転させても、《時》は落下していくのなら、どちらも同じことだろう。 車内の座席には、数人がまばらに腰かけていたようだ。少なくともそういう印象を受けた。というのも、僕はそれらの人々を、はっきりと見定めなかったからだ。だがそうしたところで、それが僕とは何ら関係のなさそうな《他人》であるという認識の輪郭が、ますます濃くなるばかりだろう。僕の関心はすべて、内面に向けられていた。外界の景色は、もはや抽象画でしかなかった。僕の内面にはホログラムがみえた。名前があった。その発音は、僕に微熱を感じさせた。直線はなく、やさしい流線型で象られたそのホログラムに触れるためには、僕自身もホログラムとして投影させる必要があった。そして僕らは抱きあった。とけあう光。《他人》からはなにもみえない。せいぜい、電車の座席に黙って腰かけている男がひとり。周りの人々となんら変わりない。いや、細かな点では違いはあるはずだ。老若男女、髪型、服装など。だがそれらは問題にはならない。自分以外の《他者》として認識されるだけ。いま、僕はその《他者》である。《他者》は内面に息づくホログラムと蜜月を味わっている。ここでふと疑問が湧く。いま、僕は、どこにいるのだろうかと。主体としての意識の感覚、それが僕のはずだ。そして僕はいま、微熱のホログラムとひとつにとけあっている。恍惚と、悦楽。 ホログラムを抱いた僕を乗せた地下鉄の走る地球は太陽の周りを公転し太陽系は銀河の渦の中を


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survof (2017-11-18):

感覚を理屈で分解してしまうような語り口はどちらかというと好きなのですが、こういうこと考えている人多そうだな、というべきか、できればもっと突き抜けた理屈っぽさが欲しい、がっしりとした、しかもユニークでもっと面倒臭い、そんな思想体系を感じさせられたらもっと面白かったかもしれない、と個人的なワガママですが、そんな印象がありました。あるいはもっと感覚的な表現に徹するかしたほうが...などと感じてしまいますが、私の好みもあるので他の方の感想にも興味があります。描かれている感覚は、なんとなくわかる気がするというか、とても親しみの持てる、あまり人ごととは思えないような、そのようなものに感じられました。

沙一 (2017-11-18):

とても参考になるコメントを頂き、ありがとうございます。 また、詩から親しみを感じて頂いて、嬉しく思います。 まだまだ未熟ではありますが、この場で切磋琢磨していけたらと思っています。 今後とも、よろしくお願いします。

花緒 (2017-11-21):

内面への注意と外界への注意がちょうどバランスすると、人間は変性意識状態に陥るという話を聞いたことがあります。変性意識が深くなるプロセスそのものを文章にしたものといった印象を受けました。時間や、他者と主体、といったテーマが明から様に開陳されるわりに、深まらないといった意地悪な目線はあるのかもしれないと一瞬思ったけれど、ここまで読みやすい平明な文章で、変性意識が深まるプロセスを辿る散文というのは、中々面白いなと思いました。

黒髪 (2017-11-21):

全体の風景が、陰画のようで、時の流れが異質になったような感覚を受けます。地下鉄というのは、 やはり音のごうごう言うような感覚とか、暗い中を光が突き進んでいく感覚があるので、そうした 感覚は、確かにあるように思います。そして、その特別について、時や他人ということについて語る ことで、独特な感想を持たされます。その感想とは、全体が絵画のように視覚的になることです。 頭の中をきらびやかな光に満たされた感覚がして、少し驚くような気持ちになります。 その一時を保存して、作品は印象を残し、過去へと流れていくような感じがします。過去へ向かう光る 銀河、そんな想像を持たされる。美しいというのか、むしろ、混乱を誘います。部屋の中で そんな詩を読んでいると、いったい世界とはどんなにまで複雑なのだろうと、思い誘われます。 僕自身は、そうした考えに耐えられるほど、強くないので、今はちょうど夜、異世界から離れ、 明日の朝を、いつものように迎えたいと思います。そんな朝を繰り返すことのうしろめたいような 気持ちを、泣きながら、耐えるしかないのかと思い、あまり健康的ではない自分を、大切にして 生きていこうと思いました。

沙一 (2017-11-21):

花緒様へ 私は衝動的に詩を書くことが多く、これも着想を得てからばーっと書いたものです。 だからこそ、普段の自分が思ったり考えたりしているものが、滲み出ている気がしています。 いわば自分の《顔》のような詩で、こちらの初投稿にはいいんじゃないかと思いました。 元から深い思想を開陳しようとして書いたわけではないので、理論のあまさなどは、たしかにあるかもしれません。苦笑 お読みいただき、感想をありがとうございました。

沙一 (2017-11-21):

黒髪様へ 詩を、脳内で映像化しながら読んでもらえたようで、嬉しく感じました。 地下鉄というのは、ふしぎな乗り物ですね。 構内は生温かくて、暗くて、轟々としていて、どこか母胎にいた頃の記憶を、思い出させるような気がします。 明日の朝を、いつものように迎えたい。そうした素朴な気持ちは、大切だと思います。 世の中はどうしても、日々変化していきますから、尚更…

まりも (2017-11-25):

地下への下降は、無意識世界への沈降へのアナロジーでもありますね。 のぼりくだりという水平方向の運動が、砂時計の上下運動に変換される。 外界の事物が、立体から平面に変換され、内界にホログラムが出現して、存在感を増していく。ここにも、平面から立体への変換があります。 花緒さんの評を読んで、うまいこと言い当てたな、と、若干、くやしさのようなものがありますが(笑) 地下鉄に乗り込むところから、砂時計の幻視、外界の後退、そしてホログラムの現出まで、一気にスピーディーに進行させても良かったかもしれない。 その方が、垂直的下降、水平運動へのまなざし、再び、時間経過も含んだ上下運動、さらには立体から平面に、平面から立体への領域移動といった、身体感覚的な思考の流れが、より明確に現れるような気がしました。

沙一 (2017-11-25):

まりも様へ わかりやすく解説してくださり、ありがとうございます。 水平運動から上下運動、外界から内界、平面から立体への変換などについて、興味深く読ませて頂きました。私自身はそこまで考えずに、対比させていったらおもしろいんじゃないかと思って書いていったので、まりもさんからのコメントは、自分にとって発見になりました。 ご指摘して頂いた、文体のスピード感について、今後の参考にしたいと思います。


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