感想:今月は、とびぬけた作品が少なかったです。常連さんの力がよく発揮されていて、頼もしいのですが、新しい人も、ちらほらと見え、才能も出てきています。

天使のはらわた」 紅井ケイ C
高野悦子のことを書いてあるが、非常に細部にわたっており、よいまとめである。当時の雰囲気が今の時代でも良く感じられる。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15225

神代もハミングも」 トビラ C
汚れたら洗えばいいよ、とか、お腹に落ちた涙が、流星、とか、いい表現がある。語りかけの文からの、さらなる飛躍が欲しいところ。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15240

自分」浅川宏紀 C
己つ柄と身つ柄という知識は、普通の人にはないだろう。本来の自分を何とか得ようとしている考えには、一定の意味が認められる。
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並んでいた」 つつみ C
情景描写が手馴れていて上手い。人どうしの関係に、心が動いて、読者のわたしも、自分に引きつけて読める。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15270

わたしの宝物」 結 B
ガレットというのがいい。大切な季節を描いて、透明な記憶は、読者の心をじんとさせる。
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蝉時雨」 群青透夜 C
地味だが、しっかりとした詩。虫と君を結びつけるアイディアが秀逸。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15289

流行り唄」 脳空オロロ C
歌について、と面白い着眼。もう少し飛躍が欲しい。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15307

溶け始めた氷菓」花束愛屡 C
地球はくるくる回った、という文が面白く、効果的。毎日の何もない感を、抜き出しており、人生の意味について考えさせる。親子の向き合っているのと、地球の終わりがつながるのが面白い。温暖化についてか。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15319

元世界王者のサイン」 yasu.na C
内容があり、面白い。栄光についての考察が、やや中途半端。独創性が欲しい。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15321

日出処の天子」 紅井ケイ B
素直な文章が魅力。色んなものを詰め込んで、ひとつの世界観が作られている。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15322

冬のにおい」 とらつぐみ C
文章力がある。感受性の良さも感じさせる。形容の試みがされており、雪と新年の気配が美しい。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15334

禁じられたマリア―ジュ」 田代ひなの B
熱帯雨林というのはなかなか浮かばないところ。語彙力が卓越しており、内容も大胆だ。新境地にも挑戦してほしい。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15340

単身ワンルームの逆襲」 az A
靴など細かい所が冴える。ボテボテとか、独自性のある言葉。哲学的な考察も面白い。何度も読まないと理解できないが、読みこむ喜びがある。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15341

」 欄干 C
電灯というワンアイディアだが、展開の仕方に力が見られる。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15342

さかさま」 おまるたろう B
実存的な深さがある。ビルの所など面白い。耐え難く思うべき現実も、人は後ろめたく思いながら、流れて行ってしまう。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15343

杉の木の下で」 aristotles200 C
杉の木の圧倒的な存在感。人の世を、映し出すような詩文。歴史性、時間制があって心地よい。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15349

生きる」 湖湖 C
精神性で読ませるが、一部文章に不自由なところがある(森の隠者になるには…等)。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15360

タニカワシュンタロウというなまえで生きていた男へ捧げるエチュード」 中田満帆 C
言葉に長けている。バーガーキングとか面白い。もう少し、心が自由に表せるといいと思う。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15362

黙れカス」 砂まみれ C
屋上プールや、アニメなど、いろんな感慨が書いてある。もっと、メッセージを積極的に打ち出してほしい。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15374

答えはどこに」 苗床 C
苦悩がよく見える。苦しみときちんと向き合っており、解決したいという願いには尊いものがある。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15378

ヒサコの恋」 無私無中 C
簡潔な書き方がいい。余計な飾りがなく、現実を見つめる眼がある。
https://www.breview.org/keijiban/?id=15391

えんがわ「ヤキソバ」【A
https://www.breview.org/keijiban/?id=15237

 「音には味がある」、という共感覚の提示から始まるが、その言葉に次第に納得させられてしまう。ここで描かれる「祭り」の体験はほとんど誰もが通ったようなものであるし、かつ、聴覚器官から消化器官、味蕾にいたる「作用」の動線も、花火のイメージと相まって想像しやすい。
 しかし同時に、祭りの空間において、私たちの食に影響を及ぼすものはこうも聴覚の経験だけには偏らないだろう、という考えも浮かんでくる。主体は、後半では花火の視覚性を排除しながら群衆の中を歩み、「ドーン、ドーン」の合間に挟まれる、記憶からの「声」を幻聴しながら、失われた色彩を花火にではなく奇抜な「新参」に求めていく。
 「音」だけに味がある、とは言い切れない、この「私」の感じる「祭り」そのものの寂寞とした味も、ここには絡んでいる。

めりい「ハムの日」【C
https://www.breview.org/keijiban/?id=15265

 一読し、違和感があった。主体が、「自分」の心からも距離を置いているような表現が、詩全体にある。
 第三連、「楽しもう」と誰かに呼びかけるのでなく、「パソコンのメモ帳」という私的な媒体に書くが、無機質に文字が打たれるだけにとどまる。誰にも向けられていない言葉として、読者の前に放り出されている。
 他にも、「助けて」で終わるのでなく、「助けてという気持ち」と輪郭を作る箇所や、先生と友人が「話をしにきた」という事実だけ書く箇所、「このハエに自分がなれたらいいのに」という不自然な言い回し。最後の「みなさんおやすみ」の「みなさん」には、「自分」も他者として含まれているように感じた。
 
 

平風ヨウダイ「掃除どきは始まってるよ」【B
https://www.breview.org/keijiban/?id=15299

 タイトルとは真反対に、まるで掃除の準備ができていないまま詩は始まる。「ほうき」も「布巾」も「布団干し」もすべて、ドアの向こう側に追いやられている。
 また、このような独り言(もしくは家具=モノに話しかける)をしながら掃除をするこの心理は、多くの人が経験した事があるのではないか。改めて考えてみると、これはどういう心理だろう。(乱雑にされたモノたちからの眼差し、それに見られている、といった意識だろうか?)
 「捨てた記憶」がないのに、なぜ「布団干し」だけが見当たらないのか。最後は呼びかけの声も消えていき、代わりにこの「掃除どき」を告げる「キイパタン」という音だけが空間を満たしていく。本当の「掃除」は始まりもせず、終わりも来ない、それをユーモラスに書く巧さ。

なかたつ「ボイスチェンジャー」【A
https://www.breview.org/keijiban/?id=15369

 終わり方が、前半と較べて抒情的である。から、たとえばそれは、「気まぐれな」情報の波(AIもはびこる)に揉まれ、平面的に顔を付き合わせるような時代の中、内在的なボイスコンフロンテーションに陥る自分の変声を乗り越える、そんなドラマチックさがあるように思える。が、そもそも文体や技巧から、語りは詩の中の荒波を乗りこなせているのではないだろうか。
 行分けが、いつ前後の行と切断され、接続されるかの解釈可能性が多くある。「雑草の名前を盗んだ」のは「わたし」か、それとも「雑草の名前を盗んだ/犯人」が他にいるのか。「アイデンティティを」「喰らい」「死す」のか、それとも「cry」(泣き叫び)「cis」(自身の身体性に意識を引き戻す)のか。どちらにせよ「危機」か。
 そういう音の面だけでなく、行分けによるイメージの裏切りもあり、はじめから主体は存分に声をふるわせてきているようにも、思うのだ。

道川アクノー「結露」【Bhttps://www.breview.org/keijiban/?id=15372  

「あなた」とはもう会えない喪失感。想い出そうとしても、像を結んでは霧散していく経験を繰り返したからか、逆説的に「完成された氷像」として主体の眼の前に現れてきたようだ。  リアルな描写、またはゆっくりと時が流れすぎている(コマ送りの)ような書き方には、同じだけ虚構性も帯びてくると、私は注意して読んでいる。第一連もそうだが、特に第四連、『「鬱陶しいなぁ」と「離れて」いく』のではなく、『「離れて」から、「鬱陶しいなぁ」と「笑われ」る』、この微妙な違和感。「鬱陶しい」がこの詩中で、ようやく初めて発される「あなた」の声ということも大切だろう。喪失感はそういう細部からも感じられる。  他の景色すべてを投げうってでも、「あなた」を「氷像」として記憶しようとする「鬱陶しさ」。「結露」の「汗」は、存在と不在の両方面に向かい常に伝う。  とても抒情に富んでいる作品。


選考の過程で、以下の作品も良かった。

・つつみ「アプリコットを鳴らすhttps://www.breview.org/keijiban/?id=15222

・A・O・I「隘影https://www.breview.org/keijiban/?id=15292

・きょこち「アイスコーヒー幻燈https://www.breview.org/keijiban/?id=15339

・レモン「タクラマカン砂漠の風https://www.breview.org/keijiban/?id=15357

・エイクピア「自転車https://www.breview.org/keijiban/?id=15405


https://www.breview.org/keijiban/?id=15232
筆名 完備
タイトル「殺してやる
評価 A

語り手の心が自己防衛のために現実の時間軸や意味づけを解体している状態に見えます。同時に、壊れた記憶の断片を通して、新しい自己を再構築しようとする力が感じられます。絶望の底にいても自分がもう一度生まれる瞬間を探しているように読め、女性の強さが輝いて見えます。

https://www.breview.org/keijiban/?id=15343
筆名 おまるたろう
タイトル「さかさま
評価 A

外科医の鋭い眼差しのように、死の衝撃を日常の一部として切り取る観察力があります。日常の中で死がどれほど自然で、同時に避けがたいものかを突きつけています。淡々と語るその筆運びが、逆に読み手の心に強烈な緊張を生み出しています。まるでドミノ倒しのように一つの死が別の死を引き起こし、小さなドミノがより大きなドミノ、より大きなドミノへと連鎖しています。日常がいかに予測不可能で、無慈悲な偶然に満ち満ちていることを、読み手は必然的に体感せざるを得なくなります。

アプリコットを鳴らす
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15222
つつみ

天使のはらわた
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15225
紅井ケイ

潜熱
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15229
つつみ

詩学
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15231
田中恭平 new

殺してやる
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15232
完備

元世界王者のサイン
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15321
yasu.na

遊園地奇譚汚染
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15332
鯖詰缶太郎

タニカワシュンタロウというなまえで生きていた男へ捧げるエチュード
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15362
中田満帆

廃患客席
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15368
古銭好き

ボイスチェンジャー
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15369
なかたつ

印象
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15377
完備

世界の偉人
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15227
たわし

ヤキソバ
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15237
えんがわ

天使篇《ハイライト》
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15248
飯干猟作


https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15239
黒髪

【サッカーDays】
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15245
poemplay29

小さな木の下で
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15260
西川晋之介

MUSE
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15317
stereotype2085

日出処の女子
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15322
紅井ケイ

私は誰だ
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15348
aristotles200

真夏の雪だるま
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15367
西川晋之介

ももいろ
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15370
砂まみれ

自分
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15253
浅川宏紀

ハンバーガー
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15266
たわし


https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15268
かすみ あられ

イカ焼き
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15271
goah

残暑え見舞はず
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15302
カステラリウム

短歌~秋を迎えて
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15326
西山智さとぽん

黙れカス
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=15374
砂まみれ

堅いせんべい食え

めりい

七夕の夜

黒髪

ハゲ散らかしやがって!

野良 ○弧