Review
Nov/24
黒髪
11月の選評by黒髪
今月は、6作です。
B 浅川宏紀「テントウ虫」
大切に思いついたことを、丁寧に考え、書いておられる。白いノートにやってくるテントウ虫というのが、鮮やかである。
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13760
A 波止場「親愛なる神の水 滝」
意外なアイディア(水の柱=滝、など)があり、素晴らしい。情景の叙述(山葡萄と枯れ草など)も独創的。完成度も高く、自由度が大きい。
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13772
A 白川山雨人「輪廻」
叙述の仕方に個性が宿り、哲学的である。詩的形容(青い風、など)も、美しい。思想の深みがある。
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13773
B ものつくひと「しゅうまつのゆめ」
詩の題材の選び方が、独創性につながっている(初連)。自分の部屋、生活と、あなたの夢。そんな心の願いが美しい。
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13776
B ほり「一つの答え」
「諦め」ということを、体得している。詩行が、クリエイティブであり、詩を書く喜びにあふれている。
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13778
C 桜餅春彦「ホワイトスノー」
純真無垢な女性が、会いに来てくれる人を待ち、しかし自分の提示の仕方が分からず、一人だけの世界で暮らすことの幸福から、脱して外に出ようとする意識が、美しく描かれている。
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13815
「11月の感想」
今月は、大豊作。最近投稿を始めた人で、かなり良い詩を書いていらっしゃる方が、大勢いたので、B-REVIEWを利用されて、さらに上を目指そうとしていると確信できるような方、つまり、詩を書き続けられるだろう方の詩が読めて、本当に勉強になったし、刺激された。詩の世界は、やはり自分一人で書いているだけでは、なかなか満足がいかないと思うので、B-REVIEWの存在意義が、明らかになってきている。今回拾った方々は、ほぼセミプロの域に達していると思われる。また、セレクションに拾わなかった方の作品も含め、半数ほどの人は、読んでよかったと思える詩を書いておられ、全体的なレベルも低くない。
カオティクルConverge!!貴音さん
大賞:名美池袋気分 紅井ケイ
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13725
前作の感想と被りますが、時代の切り取り方が上手な方だなと改めて思いました。当時のギャルがいた時、私は小中学生でしたかね。なんかド偏見で申し訳ないんだけど、こんな感じに頭軽くして生きていたんかなぁって考えさせられました。今となってはギャルでいれた事って貴重な体験なんじゃないかなと思います。同じギャルでも今ってネットがあるから外ではウェーイでもそっちで悩んだりしてそうだなと思うし、特に今ってなんとかなるっしょ!と思いながらもガチでそう思い切れないくらいになんか情報とかに圧迫されてる気がするので。詩らしい言い回しは無く、ギャルっぽいしゃべり方に徹底している所は私としては好感が持てました。作者様の実際は分かりませんが、元でも現役でもガン黒ギャルさんがビーレビに現われて詩を書いてるって妄想するとなんか面白いなぁって。詩には遠い人種だと思っているので。この軽くて根拠はないけどしっくり来るなんとかなるっしょ!を出せる再現度が凄いなと言うところで1つ。詩を飛び越えて、今のギャルさん、当時のギャルさんは何を考えて生きているのかなと色々と想像をさせられたので2つ。私は大賞に推したいなと思います。
佳作:幻日と夢 秋乃 夕陽
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13729
ガッツリと退廃な感じがとにかく伝わってくるなと思いました。なんか私は作者さんがそう言った物を書くとしたら、どこか暗いとか、暗い感じにも取れるみたいなのを書くんだろうなと思っていたんですけど、ちょっと意外性を感じました。色んな作風で書ける人は読んでて楽しいですね。多彩さを評価したいなと思いました。
優良:よるのふろ 舎利
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13732
短い詩で、文中の動きは少ないので、じっくりとお風呂に浸かれる感じで読めました。このローファイな、チルアウト決まりそうな空気感は今月1番かなと思いました。
優良:浮気の代償 植草四郎
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13763
短い詩の中にクスッとした笑いと、哀愁が詰まっているなと思いました。色々と想像しちゃいたくなるのもこの詩の良いところですね。犬がその後にどうしたのか、チンチンのない男は浮気をしないのか、女がちんちんを持って行かない理由・・・文量に対して沢山の想像を膨らませてくる詩を私は出来ないので天晴れです。
佳作:うつくしくでかい屁 奥間空
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13765
多分、私生活で疲れているせいなんですかね・・・ゲラゲラ笑ってしまいましたね。ロシアの老化学者と殺し屋の部屋の出て行き方にギャグセンスを感じました。作者のギャグルーツをしりたくなりました。
類
三明十種氏
https://www.breview.org/keijiban/?id=13845
『葛の葉』に返詩を書きたくなった。感動させてくれる詩は、創作意欲も刺激してくれる。この返詩は、元の詩の『葛の葉』から受け取ったイメージと私の解釈を織り交ぜた形になっている。あくまでも主観的な想像の産物に過ぎないが、この返詩で『葛の葉』に対する愛が伝わることを願っている。作者の三明十種氏に深い敬意を込めながら。
『葛の葉』に贈る名も無き返詩。
この葛は、餓えている。弱っている。湿っている。静と動が絡み合い、結ばれては解かれ、解かれては結ばれ、恐る恐る蔓延りながら、それぞれの断片を巻き込む。人間の営みも、追憶も、社会との関係性も、風も、そして時間の流れも。この葛は、縺れた蔓を伸ばし、葉擦れの音を立て、陰影を静かに描きながら、あらゆる生を包み込む。懐かしさも、いやらしさも、息苦しさも、怖さも、恥ずかしさも。この葛の葉は、湿り気に鬱蒼と塞ぎ込み、容赦なく降り注がれる無常を、丸ごと受け容れ、途絶えがちな精神を、辛うじて支え、幽かな響きとともに、危うく揺れ、梅雨から盛夏へ、差しかかる強烈な太陽の光に、絶えず心を揺さぶられている。
『凩馨』A・O・I氏
評価: B
https://www.breview.org/keijiban/?id=13779
言葉が言葉になる以前の言葉のようなもので紡がれた物語――その物語が物語になる以前の物語のようなものが、不安定な状態でありながら確かな産声を上げている。言葉とは何か? 物語とは何か? もしも貴方が明確な文章で書かれた物語を求めるならば、小説を手に取ればそれで済むだろう。視覚的な映像を求めるなら、映画でも漫画でも絵画でも何でもある。作者は――心のようなものを見つめているのではないか。それは名前もなければ形もない、ひどく不安定で消えやすいもの。心のようなものをひとつ、またひとつと重ねて描かれた真の「心の物語」がここにはある。文末の「Enter.↵」も良い味を出している。
『Voice』紅茶猫氏
評価:C
https://www.breview.org/keijiban/?id=13831
視覚と聴覚の言葉が絶妙にバランスを取り、静と動の対比が鮮やかに表現されている。海の音の爽快さと、膿や産みの音といった痛苦と神秘性がさり気なく調和し、独特の雰囲気を醸し出している。具体的な表現と抽象的な表現が交錯し、心象風景として不思議なイメージを喚起させる。全体的に抑制が効いているものの、決してドライではなく、湿っぽさも感じさせない。その代わりに、蝶の体温のような儚げな平温さが感じられ、眺めていると心地よさを覚える。特に締めくくりの詩句における超現実的な飛躍が見事。
『くだんのために』A・O・I氏
https://www.breview.org/keijiban/?id=13808
評価:AまたはB
作中の一句を取り上げてみたい。「貴重なる海の破水されたぬいぐるみのようで蝋細工である蛆虫の196ピースが」という強烈な表現を私は忘れられない。作者の作風には全体的に不思議な感触を覚える。今回の『くだんのために』は、幻想的な恐怖が洪水のように押し寄せてくる。幻想的な恐怖? 恐怖とは、恐怖する対象が明確でなければならないはず。幽霊を目撃した瞬間に、初めて恐怖の感覚が生じる。しかし、幽霊と邂逅する前に心霊スポットを彷徨うときの心理状態は、恐怖ではなく「不安」と呼ぶべきだ。したがって、「幻想的な恐怖」という言葉自体が二律相反し、矛盾しているとも言える。なぜなら、幻想とは明確な対象にはなり得ないからだ。それは頭の中の観念であり、想像である。それでも私は、『くだんのために』の読書体験として幻想的な恐怖を感じた。それは言葉の幽霊が蠢いている様を目撃したからかもしれない。
『術産』熊倉ミハイ氏
https://www.breview.org/keijiban/?id=13752
評価:B
シュルレアリスムの画家ルネ・マグリットの夢幻的かつ具象的な世界観を彷彿とさせる、不思議な手触りを感じさせる。『術産』に登場するすべてのモチーフは、広義には比喩と捉えることもできるが、現実的な比喩としてではなく、むしろ超現実の世界を構築するためのイメージとして存在しているように思える。それらは、超現実の世界における出来事や現象、あるいはイメージそのものであり、比喩的な要素を超えた独自の実体を持っていると言えるだろう。特に印象的なのは、終盤に登場する「大きな黒いイボ」という極めて日常的な言葉。(ただし、その大きさが想像を超える場合もあるが、それはさておき)それまでの不条理で超現実的な流れの中に突如として現れる日常的なモチーフが、逆に一層不可解な存在として浮かび上がる。このように、現実世界では超現実的なモチーフが突出することがあるように、逆に超現実の中では現実的なモチーフの存在感が際立つという発見が私には新鮮だった。
Most Voted Work
術産
https://www.breview.org/keijiban/?id=13752
熊倉ミハイ
キラーフレーズ賞
九十九空間さんの「ルミエ」より、
「列車が静かに過ぎていく」
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13821
ぺえ太さんの「傾奇」より、
「冷えた焼きそばをすする傍ら」
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13759