作品名:祈り 作者:中沢 https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=12923

(0)強いて言えばこれが好みだが、特段優れているとも思わない。すべての投稿作品を斜め読みしたが(ほとんど作品は最初の数行のみ読んで捨てた)、韻文的な詩は軒並みクオリティが低すぎる。一方で、完成度が高い作品はすべて散文的であり、私の好みではない。と、このような印象論だけ述べても投稿者に益するところがないので、中沢氏の「祈り」という作品を簡単に批評してみよう。

(1)まず長すぎず短すぎないところが良い。私の信ずるところでは、詩において言葉の密度は本質的である。長く散文的な「語り」は生ぬるいと思う。一方、短歌や俳句はえてしてあまりにも短すぎ、言葉を切り捨て過ぎた結果、意味が焦点を結ばないことがある。ぎりぎりまで言葉を削ぎ落し、しかし豊かでしかも「明確な」意味や情景を湛えている、そのような作品を私は好む。 その点この作品はバランスが良い。ダラダラとした語りに堕さず、言葉を圧縮しているが、それでいて意味とイメージのつらなりが途切れていない。例えば、 爆散 -> 流れ星 -> 青い -> 朝 -> 明るい という冒頭のイメージの連なりは見事である。読み手に無理なく補足可能な範囲で言葉をジャンプさせている。

(2)次に、こちらがより本質的な点であるが、一つ一つのフレーズが「意味」と「イメージ」を同時に持っているところが良い。6月の投稿作品全体をざっと読んで感じたことであるが、意味だけを書いている詩、あるいはイメージだけを書いている詩が余りにも多い。重厚な描写であっても、描写のための描写に意味はない(と私は信ずる)。意味だけを語りたいならブログで書けばよい。イメージの描写だけを行う詩は、ただ写実的であるだけの絵画のようなものだ。写真じゃ駄目なのだろうか。さてこの詩は意味だけにもイメージだけにも流されず、上手にバランスを取りながら作品をまとめ上げている。例えば、 >ある極夜が明けることは >反対側の誰かの気まぐれの祈りが >季節風に乗ってくるからか という三行には、美しいイメージに問い(=意味)を乗せることに成功している。

(3)最後に、この作品は二連目が駄目だ。意味もイメージもとってつけたような陳腐なものだ。そのうえ、意味とイメージが分離してしまっている。つまり、二連目の冒頭 >爆発する >一瞬の閃光 >こめられる祈り では、最初の二行でイメージを描写し、続く三行目で意味を述べている。作者は「爆発する/一瞬の閃光」の部分をかなりゆっくり、息をのむような気持ちで読んでほしかったのではないだろうか。そして、「こめられる祈り」という観念的なフレーズに「切実な実感」を覚えてほしかったのだろう。しかし、もしそうだとすれば読み手に期待しすぎだ。「爆発する/一瞬の閃光」などという陳腐なフレーズを、息をのむようにゆっくり読む読者などいない。「祈り」という題名はここから採られたのだろうが、その大切な部分でこういう失敗をしてしまったのは残念でならない。

ぺえ太 アイ・アム・ザ・ウォルラス

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私はチバユウスケと言う人間を崇拝しているんですけど、これは初期ミッシェル時代のポップだけど捻れている、瑞々しいけど歪んでいるみたいなものを感じさせてくれました。ビーレビにはこのタイプの詩人は少ないので感激しております。

ほり     吹雪

https://www.breview.org/keijiban/archive.php?month=2024-6

視覚に拘ったような詩は幾つかあるんですが、なんかクドいけどそれ何の意味あるの?って思ってしまう質ですが、こちらの作品はそういったのを感じさせず、でもタイトル通り言葉で吹雪いていてるのをしっかりと再現出来ているように思いました。記憶が飛び散っているのを表現しようとしたときに、読み辛さというのが出るとおもうんですけど読みやすかったです。私はやり過ぎてしまうのでこの加減を出来る人は尊敬します。

妻咲邦香         花びらの名前

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顔見知り程度の仲ですがそれに全面的な信頼を置いた上で話すと、私と同じでメッセージよりも語感を優先している感じがします。今作だと「花びらの名前を考える」ってナイスな1フレーズの為に詩作が書き始まって、そこからまたナイスなフレーズが生まれて継ぎ足しているような印象を持ちました。継ぎ接ぎだらけやないかいと貶しているかも知れませんけど、メッセージ性を優先しない私としては作者の作品は大半がツボに入ってます。なんか分かるような、でも分かんねー、けど良いんだよなが私の思う詩の理想の1つなんですが、良く出来ていたと思います。もう1作も実は好きなんですけど本人の希望で不参加作品になってしまったのが悔やまれます。

万太郎 長男は脳の病気ではない

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今月では1番ハードコアをしていたと思います。蠱毒づくりしている壺に臓物を煮込んだ時の灰汁だけを流し込んでみたような感じです。とにかく濃いです。両親、長男、私という人物、そして社会、どいつもこいつも真面じゃない感じが正気じゃない文章から出ていました。勢いで書いたのかも知れませんが、綺麗に計算されたキチガイ文だなと思いました。社会が狂ってるからこの人はこんなのになったのか、それともこの人がおかしくて社会から外された人間なのか、どっちが多いの?って疑問を久しぶりに考え込んじゃいました。これはもしかしたら作者の伝えたい事から外れているのかも知れないですけど、普段はツルンって読んじゃうタイプなんですが、読み進める度に考え込んじゃうフックが多く今月で1番長く向き合った詩でした。

佐々木春         リマインド

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この作品からは私が思い浮かばないたくさんのフレーズがありました。私は感覚読みで~、なんちゃらかんちゃら~と言うのを例えば妻咲さんや1.5Aさん辺りに言うっている気がします。どれくらいかというとそうですね・・・“夜空はゆっくり逃げるみたいに宇宙に向かって薄くなる”、“薄紫のプールの底に街は遠く地平線まで並んでて”、“科学的な気持ちが胸の辺りからしなやかな管を通って全身に行きわたる途中で”、“夜空がこんなに明るいのはどこかできみが死にかけてるからかもしれない”、“色の隙間で濃度が瞬いたような気がする”、“さらさらの掌に携帯をのせてやわらかい指で「いま」ってきみに送信する光が走る速さに耳を澄まして既読になる前にきっかけを取り消す”、“暗闇に浮かぶ画面にさっき覚えた言葉を並べるきみが生きてることを保存して先送りする”ですかね。全文に対して強めに削ってもこのぐらい残ります。別に私から選ばれた所で何の価値もないかも知れませんが、輝いたフレーズがこの作者は多いと感じますので読んでみてください。私はお手本にしたいなと思いました。

1.5A    花篭

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リスペクトしているという言葉を免罪符に言うならば1節目の1行詩の集合体がとても良いなと思いました。行間をガッツリ空けてのこの2.3節は必要だったのかなとちょっと思いました。私の読み癖というのでしょうか…すみません。自分はスペースを使わない余裕のなき詩ばかり書いているんだろうなと思いました。なんか軽く貶したような言い方していますけど、大勢の作品より優れていると思っています。なんか読んでいて作品の向こう、人柄とか知りたくなって来るんですよ。何が好きで、何が嫌いなのかとか。これも詩として理想の形だと思うので良いと思いました。

田中恭平 newさん「PHOENIX」

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ちょうどストリートピアノの歴史を調べていた。なぜならば街中を歩いているとき、どこからともなくピアノの旋律が流れてきたからだ。ストリートピアノの発祥については諸説あるみたいですが、そもそも外にピアノを置くなんていうのが、いかした発想ですよね。『PHOENIX』という表題は「メロディーになってリフレインしているんだ」というセリフになぞらえているように聞こえます。私たちの営みは、繰り返すときの中にあります。降りやまない雨の中、濡れてしまうこともいとわずに、白い空に向かって、何度でも耳をそばだてる。風が吹けば簡単に飛んでいってしまうようなちっぽけさで、後ろ姿は弾いてくれる人を待つストリートピアノみたいで、でもその心の奥には、永遠に蘇る『PHOENIX』みたいに、とてもいかした作品が流れています。

おまるたろうさん「はね」

https://www.breview.org/keijiban/?id=12929

はねがついていたら楽なのにと思う。自由に飛んで、どこにでも行けて、空中に浮かびながら東京だって一望できる。何ならそこら中にあふれかえるマスコットキャラクターを見つけることくらいお手の物だ。そのうちスカイツリーにのぼる必要もなくなって、せせこましい車や、なぜ飛べるのか原理のよく分からない飛行機だっていらなくなるはずだ。その代わり、身の回りにあることが色々と少なくなってしまうだろう。でもそれは悲しいことじゃなく、むしろはねがついていない方が悲しいことだと思う。ときどき空から送られてくる。それは束の間の贈り物のような気がする

ゼッケンさん「おまえじゃねぇ、と一人称は言った」

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色んな一人称がでてきて、PCの液晶ディスプレイの中でめちゃくちゃ暴れてくる。それを見ていると、自分の中の説明できない感情が、ときとして自分に襲い掛かってくるのではないか、という強迫観念すれすれの恐怖を感じつつも、それを画面の外から静かに見つめている自分がいることに、はたと気づく。そしてときどき一人称は、液晶の外に這い出てくる。そのいくつかはタイミングを見計らい、頭の中に入ろうとして、耳たぶにまで手をかけた。おいおいと思う自分。その光景を、さらに離れたところにいるもう一人の自分が見つめている。見ているくらいなら手を貸せよ、と自分の声がこだます。やがて自分同士のケンカが始まり、いつの間にかポカスカ叩きあっている。しかしシャットダウンの音で、スッと残像はまとまっていき、気づくと自分だけが椅子の上に取り残されている。結局、自分って何なんだろうなと思いながらも、自分を保持するために、自分はいつも、こんなふうに自分と応戦しているのだろう。

夏立むぎさん「話」

https://www.breview.org/keijiban/?id=12949

「ただひたすらに自分のために生きよう。」その通りだと思う。まずは自分のことを自分で精一杯する。これが基本。余力のある人は、その力を困っている人におしげもなく使っていくべきだろう。さて、我々はすぐにフライドポテトを食べがちである。でも、フライドポテトが我々の幸せを具現化した食べ物であることはもはや書くまでもないことです。おや、羊も出てきましね。たまにテレビで見る毛刈りのシーンくらいしか記憶にはございませんが、きっと可愛い動物だと思います。どうでしょうか。もしかして気を抜くと、ここに書いてあることなんて瞬く間に、風で吹き飛ばされていくことでしょう。百歩譲って、それでも良いと思えるのは、今この瞬間に、あなたが生きているからだと思います。

カオティクルConverge!!貴音さんさん「diary_aryarchive」

https://www.breview.org/keijiban/?id=12962

この作品、毎日一つずつ、あるいは二つずつ書かれたものだろうか。だとすれば、毎日こんなにも色のある生活ができていることになる。その色は、まるでサクマドロップスのようで、一粒一粒をつぶさに味わっていくと、切実さという言葉が頭のやわらかい場所に浮かんだ。「薄いハッカみたいな風の吹く朝」という言葉が作中にあるけれど、たとえ切実さの最中にいるときも、ハッカの凛とした清々しさを忘れないように暮らしていきたい。

ぺえ太さん「アナザーホラー」

https://www.breview.org/keijiban/?id=12963

淀みのない文章を存分に堪能できる作品。読む際に引っ掛かりを覚えたり、疑問に感じるような場所はどこにもない。まるで虫眼鏡で誰かの生活を拡大して観察しているようだ。普通に読んでみると、「ビーレビ」というサイトについて言及しているように見える。でも少し目を細めて読むと、作品の端々からSNSという暗号が見え隠れしている。三文字ばかしの怪しい暗号によって、人と人とは認識をしあえる時代だ。画面越しの私たちは、気軽さというアイコンを身に纏って、会うことはないという縛りのなかで、顔だけが大きくなってしまいがちであることを、反省したい。

佐々木春さん「リマインド」

https://www.breview.org/keijiban/?id=12977

この作品には突き抜けてくるような強さを感じた。初めの四行を読むだけで、作者の持つ稀有な感性に気づく。それは、言葉をグラデーションとして構築するかのように、淡く鮮やかな色彩で読者の瞳の奥に印刷される。「きみが死にかけてる」という象徴的なフレーズが頭に残る。きみが死にかけているのにも関わらず、わたしは携帯を触る。もしかしたらきみは、わたしの携帯の中でしか生きていけなのかもしれない。わたしについての人となりは、僅かも書かれてはいない。きみの死に対する執着だけが、わたしを説明する。偶像という言葉がある。わたしにとって、きみという存在は何なのだろうか。私にはそれが、夜にしか咲かない花のように見えた。

◾︎ 『そして金魚に食べられる』は、一読で、ピンときました。何にピンと来たのか、使用している語彙や、広い意味での文体のようなもの、「風が微粒子まで逸れたら」、全体に静謐な印象があるのですが、「遠く遠くの海だって」……うまくは言語化できないです。

◾︎ 『』、この作品は、一行一行よりも文章全体をひとつの像として、見えた気がしたのです。コメントにバーネット・ニューマンと書いたのは、絵画のジップ(画面の直線)と三途の川、がふとよぎったのです。

◾︎ 『』、この作品は『霊』で強い視覚的な印象を喚起された後にみたので、やはり映像的というより、立体的にすら見えて、一行ずつ意味を辿った訳ではなくて、だから書かれている言葉以前の、気配のようなもの、文章をゆっくりと横切る、やはりうまく言語化出来ない。

◾︎ 『葉舟』は、一読ではなくて、全文タイピングしてみたら、ひとつひとつのフレーズに指さきに伝わる、「実感」のようなものを感じました。それから所々の旧字体や、作者の感覚を追求する為なのか、あえて可読性を下げているような気がして、そのメカニズムが気になりました。

キラーフレーズ賞

「僕は愛に生き
愛に死にたい」

相野零次愛に生き 死ぬ

「トラウマは新たなトラウマで治すしかない。」

おまるたろう 「はね

「そう思ってみた私に情けの手を差し伸べてくれよ そんな、裏切り者を見るような目で見ないでよ」

ほり幸せな魚」    


「奇跡」福まる
何か(奇跡についての真実)を掴んだ人。祈りの中で、自らを捨てない。自らと向き合う態度が、詩人的である。
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13007

「幸せな魚」ほり
幸せな魚も進化して人になりました。決死の決心で幸せから次のステージに出てみる。
https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13012

「夏至」真保
逃避から逃れず、ミッションを果たしたら、幸せで快適な生活が、心から楽しめるようになると思うのですね。約束ですね。重荷を背負う覚悟の前で震えているような感じがする。 https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13026

「フロート」佐々木春
自分の幸せは大体わかっているから、人を助けて欲しいという尊い思いが、持たれている。自然な感情で放たれる救いが美しい。

https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=13018

最多得票は「葉舟」https://www.breview.org/keijiban/?id=13059 田邊容さんの作品でした。

素晴らしい作品をありがとうございました。

また澤あづさ さんから素敵な批評文が寄せられています。

「匿名投稿『葉舟』読解一例」   https://www.breview.org/keijiban/?id=13139

こちらもご一緒にご覧ください。

この作品はコメント欄も大盛況で、様々な方の解釈や鑑賞を楽しめますのでそちらも併せてご参考下さい。

中上健次を彷彿とさせる、血と地の物語の中に、「言葉」のレイヤーと、「手、指」のレイヤーが、「嘘」という意味内容に集約されていく様は圧巻の作品です。マスターピースと呼ぶに相応しいクリエイティブライティングです。どうぞご高覧ください。

今回から新しい試みとしてウェブマガジン風に、作品と選考を提示してみました。

この人はという方にこちらから声をかけさせて頂いて、感想文を送ってもらいました。

こんな感じでキュレーションの新しい可能性をどんどん模索していきたいと思います。

コラム、詩なんかもぼちぼち載せられればいいなとか思ってます。

感想、俺にもやらせろー等々は八代目運営ディスコードまで。https://discord.gg/vdrBzGtTNt

おまけ

天才詩人2選 2024年6月のおすすめリスト

花篭
1.5A
https://www.breview.org/keijiban/?id=12938

水分をかんじない
ハツ
https://www.breview.org/keijiban/?id=13057

激流にてほーるどみーたいど
白犬
https://www.breview.org/keijiban/?id=12941

葉舟
田邊容
https://www.breview.org/keijiban/?id=13059


完備
https://www.breview.org/keijiban/?id=13045

考える
入間しゅか
https://www.breview.org/keijiban/?id=13032

跡地
入間しゅか
https://www.breview.org/keijiban/?id=13013


15歳
https://www.breview.org/keijiban/?id=13041

蟹と自己言及性
橙色
https://www.breview.org/keijiban/?id=12942

月の頃
羊飼い
https://www.breview.org/keijiban/?id=12999

ディナー
熊倉ミハイ
https://www.breview.org/keijiban/?id=13021

リマインド
佐々木春
https://www.breview.org/keijiban/?id=12977
素敵なメロディーをしている

話がある
ほば
https://www.breview.org/keijiban/?id=12947