平素よりB-REVIEWへの投稿・コメント活動にご参加いただきありがとうございます。2022年1月の月間B-REVIEW大賞が決定いたしましたので発表いたします。

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目次

・月間B-REVIEW大賞
・投票作品
・概観 by yasu.na
・雑観 by 仁川路朱鳥
・活動報告 – 風林火山 by 沙一

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・月間B-REVIEW大賞

うろたん颱風 (ID:1787
Twitterによくいる下手くそな詩を書くおばさん 』9票

・投票作品

 最終得票数が3票以上の作品を発表します。

あなたとキリンとパノラマ屋敷 7票
肛門のリアリティ 7票
俺の姉が障害者になっていた 5票
満点の星空 4票
音楽と共に生きた国 4票
肉うどん 4票
詩二編/2022.1.1 3票
蜂の共喰 3票
玻璃 3票
葬式 3票
Kくん、悪いけど助けてくれ。きみだけが頼りなんだ。ほんとうに。 3票
いつ?どこで?きみはなんのために 3票

・概観 by yasu.na

【イントロダクション】
 ここに一問だけの記述式試験がある。それにはこう書かれてある。「2022年1月中にビーレビに投稿された作品群から妥当と考えられる数だけ作品を選んで話を書きなさい。ただし、得票数の多かった作品を二、三必ず扱うこと。」と。下に掲げるのは私yasu naが試みた一つの解答案である。

【解答案】
 今回はどんな感じの作品をセレクトして話を書こうかと長いこと思い悩んでいました。まったく的をしぼることができないうちに、或るとき私の意識は朦朧として、夢の中に誘い込まれました。我に返ったとき、自分は今、何を考えていたのだろうかと頭の中を溯ってみました。思い当たったのは、私の失敗した人生のことでした。(もちろんまだ私の人生は終わっていませんが)。具体的に言うことは避けますが、かつて私にはいろいろな夢がありました。けれども現在、それらの何一つとして叶ったものがないのです。なぜこうなっているのか、考えてみました。そして私は一つ答えを出しました。簡単に言うと、私は他者を軽んじてきたということがあります。ひどく傲慢な生き方をしてきました。自分一人で何でもできると思っていました。他者が私を支えようとしたときでさえ、私は驕ってその人を遠ざけてきたようです。今になって思います、人間は一人で生きていない、人間は一人では生きることができない、人間は一人で生きるべきではない、と。夢をもつことは一人でできます。でも、それを現実のものにすることは一人ではできません。支え合う人を必要とするのです。その人がどんな人間であるかという問題はあります。良い人ばかりではないです。しかしながら、どんなに醜い、どんなに卑劣な人間でも、その人間が自分を支えてくれる場合であるならば、忍耐して大切にしなければならないと思うのです。(あまりにもひどい人間であるなら話は別ですが)。人間はかくも弱いのです。そこで、今回の『概観』が強調するテーマは、人間の弱さ、強さ、結びつき、支え合い、人間の社会性、人生の構造、こういうことに決めたいと思います。

 ということで、最初には黒髪さんの『blue story』という作品を読んでみましょう。なかなか長い作品であるし、解釈も困難であるように感じます。けれど読み進めていくと、ハッと率直で、光る詩句が見つかります。「人の中で上手くやらなければ/何一つうまくできないと知るだけだ」という箇所はこの難しい作品の中にあって驚くほど率直です。次のような箇所もそうです、すなわち「何のために生きてきたのかと責めないでいられるように/優しい言葉を少し聞きたい」。人間味のある言葉です。作中、目につく言葉として「知らない」「答えもない」「理解できない」「知りたい」「分かる」「知っていない」といった言葉があります。どうやら「僕」は何かを確かさをもってとらえたいようです。その何かが何であるのかを作中に見出そうとして読んでいくと、「意味」とか「命」とか「僕以外のもの」という語が見出されます。こういうものを知り得たいという欲求を書いたのがこの作品だと私は思いました。人間が「一人ぼっち」であることは一般的に了解されていることとしていいと思います。「一人ぼっち」であることは、他の何かをつかまえたい動機となります。作中の優れた、そして私の好きな表現としては、「感覚が思考を凌駕すること/それが一番の優しさに思える」、「押し流されないように/激しい波を乗り越える泳法を実践することが/個人の責任である」という箇所です。良い詩句です。

 次は、ねねむさんの『満点の星空』です。
>帰りの通勤電車の中は 不思議な連帯感に包まれて
>皆同じ哀しみを抱えた同胞の様にすら思われる
>癒しにも似た空間。
 私がこの作品を選んだ直接的な理由はこの部分にあります。今回の『概観』のテーマは人間の弱さ、強さ、結びつき、支え合い、人間の社会性、人生の構造、こういうことでした。ここの部分に記述された情感は、誰しも抱いたことがあるのではないでしょうか。第一連で「現実」が描かれ、第二連でこのような「癒し」をもってくる。そして第三連で「現実」から飛翔しています。この第三連は巧みです。『銀河鉄道の夜』の中にも同じような移行の場面があります。ねねむさんはこの移行の感覚を模倣を超えて自分のものにしています。
>星空の中 僕の乗った鉄道はどこまでも走っていく
>アンドロメダを超え、 ぶわっとまばゆい光に包まれて
>たどり着いた先は
>いつもの最寄り駅よりももっと遠く、そして高い 高いところ
「最寄り駅」という日常(現実)に属するものを比較対象にして、それよりも「もっと遠く、そして高い 高いところ」と表現しているあたりに、かえって現実味があります。第四連(最終連)は完全に独創的です。作者にとって宮沢賢治は教科書ではなくて、海や山のような環境であるようです。

 次にはyatukaさんの『春の海』という作品を取り上げましょう。「楽しそうに跳ねる鼓動に合わせて/足取りと共に人生は軽快なステップ」と始まりますが、この言葉通りの読み心地で、最後まで一気に読まされてしまいます。では何が書かれているのでしょうか。たぶん意味だけ取れば一つの人生論か人生観に書き換えることができそうです。が、そんな作業は私にはできそうにありません。やはり詩は詩として受け取らないといけないように思います。とてもリズミカルな詩だから、なおさら書き換えなどするべきではありません。私の好きな詩句を拾いましょう。
>孵る家と買える家と帰る家がある
 これは良いです。人生のほとんどをカバーしているように思いました。
>ゆっくり落ちていく浮遊感があって楽しい
>そこには祈りと水と光と死体で花が咲き
>地上に届かぬ白い花弁がひび割れて煌めく
 すばらしい筆力です。この作品中、最も詩的な箇所ではないでしょうか。
>金が周り巡ってあなたとぼくを繋げるから
>この世界はよく出来たことになっている
 苦い笑いを誘う箇所ではないでしょうか。この作品は総じて陽気な雰囲気をムンムンと醸し出しています。こんな感じで生きてゆけたら良いなぁと、私は思いました。人生の一つの手本として大切にしたい詩文です。

 続いて読みたいのが、クヮン・アイ・ユウさんの『知るひと』です。難解な作品だとは思いますが、全体として美しく、落ち着いた筆致で書かれていると感じました。作品のテーマをつかむことは私などには難しくてできそうにありません。でも次のような箇所は割につかまえやすいのではないかと思いました。
>変わらず行き交う季節と
>必ず居る奇跡と
>錯覚と心地良い夢の違いを
>未だに知らない
 とても深度のある、作者の強い感性と知性を示す箇所だと思いました。音声的にも整っていると思います。

 次は、笠羽流雨/Kasaba Rūさんの『葬式』を取り上げましょう。完成度の高い作品だと思います。「死んだ人間」である「私」が、真に死んでゆく様が、「私」の観点から、クールに、悠々と、そして可笑しさもこめて、書かれています。前半はそれほど奥深いわけではありませんが、この文案を思いつくことは簡単なことではないでしょう。最後を締め括る二つの連では、「私」の諸感覚のうち「嗅覚」を際立たせて、生々しい表現になっています。引用しましょう。
>感覚は思考そのものだ
>丹念に紡がれた糸の上で
>有機的に作用する時間
>その中で 嗅覚だけが正確らしい

>みんなが闇を着込んで
>葬式をあげた日
>私は知った
>タバコとは違う 煙の香り
>湯気のように 柔らかな
>人間の香り
 なんだか本当に「人間の香り」を嗅ぐようだし、背筋もヒヤッとしますね。

 次に取り上げたい作品は(6番目ですが)、西富山さんの『』という作品です。「弱い」「強い」という語が出現する作品です。そして短いけれども言葉と人間を問題にして実感を伴いながら美しいイメージを提示しています。
>起きた出来事に、生まれた感情に、合う言葉がなくて、さまよう言葉を手にとる……
 この作品にはぜひ目を通していただきたいと思っています。

 次は沙一さんの『ゆびきる』です。ひらがなだけから成る、そして巧みな、しかも自然さのある頭韻を踏みながら進行する、たぶん男女二人の物語詩です。むやみに頭韻を踏んでいるのではなく、清潔な言葉を選んでいる印象を受けます。
>きずはいつしか
>きずなになって
 良いですね。最後の句頭の「いゆ」とは何か分からないけれども、不思議と好きになれる語です。とても洗練された詩であると思いました。

 次は、ちょっと異色かもしれないけれど、鷹枕可さんの『蜂の共喰』という作品を取り上げましょう。「詩とは言語の自明性に逸れた、病である。」と始まるこの作品には、どう読んでも詩人は狂人であると書いてあるようにしか読めないから、そういう筋で読んでみましょう。詩人と社会の関係を書いているのです。前半で、狂人である詩人は「社会に存在を置いてはならない。」と述べられ、詩人である「私」は「死ななければならない。」と言われます。後半では一見暴力的な言葉が出てきますが、それは字面だけのことで、大切なことが書かれているようです。つまり詩人である「僕」は、社会に対し、現実に対し、挑戦して、既存の秩序の変革を試みようとするのだと書いてあるのです。詩人という人種についての議論を詩の形で表現した作品だと思いました。

 次、最後に、深尾貞一郎さんの『願い』という作品を取り上げて締め括りましょう。何か、映像作品の原案のような詩です。読むにあたっては、あまり筋や論理を把捉しようとする意志を持たない方がいいかもしれません。書かれているままに流されて、脳裡に浮かぶ映像を楽しむ読み方がいいかもしれません。とは言え、「唐島という島」、そこにある「神社」、その島の海岸にある「巻貝」、「祖母」、「女神」、こういった前半に登場するものたちが、後半に登場する「スナック」、「その女」、そしてやはり「島」、また「貝殻」などとイメージ的に相応じているようにも思えます。前半は「子どものころ」、後半は大人になってからのことが書かれています。また、前半には、
>私は願った。
>教えてください。人の死と畜生の死には違いがあるのだろうか。
>むかしの人々は、
>なぜ人の命と畜生の命をちがうものだと、考えたのだろうか。
 とあり、そして後半には、
>私はずっと、島にあった貝殻を求めていた。
>人は人の世界のことしかわからない。答えなどありはしない。
>答えなどもういらないのだから、
>静かに暮らしたい。
 とあって、こういうところもなんとなく対になっているように思えます。渋い作品だと思いました。

【試験を終えて】
 今回は前回より少ない九篇の作品を取り上げて私は解答案を作成した。すべて1月の作品である。
 ビーレビの運営の人員の中で、私は作品の得票数のカウントと『概観』の作成という役目を主に担っている。ユーザーが投票した票数によって毎月大賞が選ばれるという独特な選考方法を持ったビーレビ杯、その月次選考結果発表というものがあるということはビーレビの特徴であり、また看板でもあるから、運営の他の方々と等しく重要な役目を分け持っているのである。(ただし、運営にもいろいろな仕事があり、私のこの役目などは易しい)。
 単に得票数をカウントして高得票順に並べて示すだけのことなら機械に任せればいい。しかしそんなことが毎月続いては何の面白さもない。ビーレビは、この世の中に無数にある人間的な活動の中のささやかな活動の一つである。私は、人間の力でできることをしたい。
『概観』は誰が書いてもいいと思う。ただこの『概観』というものを発案した、そして書きたいと思ったのがたまたま私だったので、私が書いているのである。名称はどうであれ、そして私が運営から退いたとしても、このような文章は月次選考結果の中にあり続けて欲しいと勝手に思っている。
『概観』は「選評」ではない。私はこの文章のイントロダクションの中で「話を書きなさい」と言っている。そう表現することで、ユーザーによる直接投票で大賞を選ぶというプロセス、および、カウントされた得票数の多い順に作品を並べて示す機械的作業との区別を言いたかったのである。ユーザーによる直接投票で大賞を選ぶということは、ユーザーが「選評」を書くということである。運営が「選評」を書くのではない。
 さて、私という一人の人間がビーレビに投稿された作品群から限られた数だけ作品を選び出して「話を書く」、このことの中に公正さや妥当性はあるだろうか? 何を基準に選ぶのか? こういうように問うことを忘れないことがそもそも大切である。
 今回の「解答案」においても、前回と同じように、文章を貫く或る一つの大雑把なテーマを最初に決めて、そのテーマに合う作品を選んで書き進めた。そのテーマは、人間の弱さ、強さ、結びつき、支え合い、人間の社会性、人生の構造、こういったことだった。まずまず、こんなテーマで書けたと私は感じているが、読者の皆さまはどう感じられたであろうか。
 この『概観』が意味のあるものになっているならばと、願うばかりである。

・雑観 by 仁川路朱鳥

 いつもお世話になっております。仁川路です。
 私の方は、『運営参加のお知らせ』にもあるように、色名での統計を行なっていました。統計は作品投稿掲示板にある文章を元にし、とっているため、コメントの方は拾っていません。
 さて、2022年1月投稿作品中、多かった色名の表現は、
1位:白
2位:赤
3位:黒
 となりました。原始社会の色3セットです。やはり新年の投稿作品ですから、「ここからスタートする」という意味合いがあるんでしょうかね。好きな色に塗りつぶしていっていいと思います。あとは地方によるでしょうけども、雪からの連想でしょうか。ちなみに、ワクチンも白を連想する色らしいです。
 また、赤色も多かったです。赤色は古来から魔除けの色として使われており、女性が口紅をする理由もそこにあります。1月は正月のある月。新年としてふさわしいスタートではないだろうかと思います。紅白饅頭から来ているのかもしれません。
 黒色については、黒単体というよりも、言葉の中に含まれている黒さの方が多かったと感じています。コロナ禍で先が見えないというのもありそうですが、詩人が持ち合わせている孤独感が影響している、というのもありそうですね。あるいは単純にテキストの色か。

 色の変化が作品にうまく影響を与えているな、と思った作品は
・深尾貞一郎さんの「緑葉羊の少女
 色名のていねいに塗られた重なりが、ストーリーラインに重みを与えていました。重厚に塗られた油絵のような質感を思わせます。現実と夢の境界線があいまいになっているような作風、私は好きですね。本当は1月中にコメントできたらいいなと思ってたんですけど、こういう機会でないとなかなか読めなくて……
・水上 耀さんの「public poet
 去年のびーれびしろねこ社賞の特別賞作品ということで、私からかける言葉はないようなものですが、「ダイドーの自販機が佇んでいた夜と同じ色」という独特な表現。将来性を感じました。

 ところで、カラーコーディネーター3級のテキスト(第4版第6刷)に「色から連想する事象」の表と一緒に、「具体物から連想する色」という表もあったのですが、日本文化の衰退にしたがって表から消えていく具体物が多いみたいです。色がはっきり定まるようなものなら統計に入れられるんですけど、定まらないものはどうしても入れづらいというか……にしても「宝石」という単語が緑か紫どちらにも当てはまってるのはちょっと表を作った人の神経を疑いますね。補色なのに……
 なお、生きてきた時代・経歴・環境・持病によって言葉から連想する色も変わってきますので、私は「色名がはっきりしている言葉」のみを計算に入れます。血だって、静脈血と動脈血があるし、もっと言えば青や緑や紫やピンクもあるわけで。話者がカブトガニやゴカイやホヤでなく、深刻な怪我でない場合、静脈血として判定しています。

 B-REVIEWのイメージカラーは黄色ですが、黄色には「愉快」「発展」「注意」「弱々しい」「若さ」などの意味合いがあります。どこまで考えて黄色を選んだのかは私には計り知れませんが、現代詩投稿サイトとして発展の一途を辿っているあたり、色選びは成功しているのでしょうね。
 あなたにとってのB-REVIEWは、どのような色でしょうか?

・活動報告 – 風林火山 by 沙一

 新運営の沙一です。私が主に担当する業務は、フォーラムの記事作成・編集と、Twitterビーレビ公式アカウントbotのツイート登録・編集になります。
 botについては、過去の受賞作品の紹介がタイムラインに流れる仕様なのですが、2019年11月以降の受賞作品が反映されていなかった為、そこから2022年1月現在までの受賞作品についてをツイート登録いたしました。

 新運営は私を含めて4人体制。いままでと比べて人数が多いように感じられますが、役割分担を明確にし、情報共有をこまめにすることで、各人にかかる負担は少なく、業務を円滑に行える体制となっております。

  速きこと風の如く
  静かなること林の如く
  攻めること火の如く
  動かざること山の如し

「風林火山」をモットーにして、運営に取り組んで参ります。

 以上で1月選考の発表とします。

 2022.2.19 B-REVIEW運営一同