B-REVIEWユーザーの皆様、平素お世話になっております。
二月の月間B-REVIEW大賞ならびに選考委員個人賞が決定したため、ここに発表いたします。
なお、二月の選考委員は

が務めました。

~~~~~

目次

・大賞並びに個人賞発表
・選評
・月間最多ポイント数、view数、投票数作品ならびに投票作品発表
・雑感

~~~~~

・大賞並びに個人賞発表

月間B-REVIEW大賞

あか「此岸彷徨

個人賞

たもつ  いまり「約束

AB  斉藤木馬「落雁

仁川路朱鳥  暗谷時宗「殺さない世界

ふじりゅう  あか「三月の桜、四月の鬼

帆場蔵人  斉藤木馬「層雲(音声版)」

・選評

大賞

あか「此岸彷徨

 本当に上手い詩に出会うと、言葉を失うことがあります。この作品がまさにそうで、解読しようとしなくとも真意は伝わり、それでいて魅力を失わない。手放しで褒めまくってしまいたいのに、私にはそれだけの言葉もない。言い過ぎなんじゃないか、と疑う方々は一度、この詩を読んできてください。おそらく、私と同じ気持ちになるはずです。 この詩の中には、難しい表現は一語もありません。どれもが理解しやすい、平易な言葉ばかりです。さらに言うならば、描かれている事象だって普遍的にあり得るものなのです。しかしそれだけではない。わかりやすい言葉の中にさえ、繋ぎ方が非凡な表現、面白くて読み飽きさせない表現があります。例えば、

>かけがえのない 暇を一針ずつ縫ってた

 はじめの一節ひとつだけでも、非凡な表現であることはお分かりでしょう。(本当に、このようにしか書けないので、気になってきたら一度、この詩を読んできてください) 私が個人的にすごい、と思った部分は具体的な時間(二時、三時など)と心理描写が繋がっている部分と、上記のように難しい表現もなく、よくある出来事であるはず、なのに、異世界の出来事であると思えてしまう部分です。 ここ最近、テキストだけでなく写真や視覚詩や絵、動画ではリーディングや音楽など様々な詩作品が増えてきていますが、こちら「此岸彷徨」は純然にテキストのみで、手放しに評価できる詩です。気になったらぜひ、読んできてください。

(選評:仁川路朱鳥)

個人賞

たもつ

いまり約束

 詩は誰のためにあるのだろう。詩は誰が書くべきなのだろう。 詩を書くのに資格はいらない。要件もいらない。 けれど詩を書かなければ生きていけない人は確実にいる。 切迫感。詩が詩としてあるための理由。それがこの詩にはある。 どうしようも表現できない心の断片のパッチワーク。 計算されずに無造作に張り付けられたフレーズの数々は、意味を 持たない、もしくは意味を推測させない。 しかしながら必然性によって生まれ、つなぎ合わされ、 結果、それは作者も知らないところで緻密な計算によって成り立ち 恐らく、何らかの意味を持っている。 この圧巻な詩をぜひ私の個人賞としたい。

(選評:たもつ)

AB

斉藤木馬「落雁

こういう作品に拙い評というか、にわか仕込みの情報と感情を伝えることが、役に立つのだろうか。と思いつつ、ひとめぼれの作品「落雁」について感じた情景をなぞってゆきます。 風景はおそらく金沢八景の「平潟落雁」、近江八景の「堅田の落雁」かもしれない。いや、雁の帰る夕闇の風景の見える浜ならどこでもいいのかもしれない。画像はその浜にあげられた小舟。満ち潮に連れてこられて、引き潮に置き去りにされた藻屑、漁りの道具、ふきおろされた陸の葉っぱ。小さなものは潮、雨、砂とまざりあって、そのうち、小さな生き物の餌になる。 この情景の中には、波の音、風の音があって、実は近くの道を走る自動車の音や、生活の音、工場の音が混ざりあっている。「沈黙」しているものは何でしょうか。いや、物質ではなく「沈黙」が意味するのは何でしょうか。海になる。それを希求している(これにもゆるやかな反意を感じる)。そのためにも「沈黙」が必要だと。真実とはなにか、美味しいとはなにか、それがすべてで、すべては海になる、ああ判らない(という読んでてうれしくなる魅力)。詩で表現すべきものは何かと考えることもあり、それこそ答えの出ないものですが、この作品は詩でしか表現できないものの強い力を感じます。 と、読んだ感情をなぞってみましたが、思いは伝わりますでしょうか? 構成や最後の二行の素晴らしさは、作品コメント欄をご参照されてもよいかと思いますが、、、 とりあえず、まっさらになって最初から読んでいただければ、と願います。

(選評:AB)

仁川路朱鳥賞  

暗谷時宗「殺さない世界

 コメントでは簡素に評価しましたが、本当に、個人的にすごく気になっていた詩です。 どことなく時事問題を取り上げたような、切り取ったような内容だと感じました。しかし、それらの提示は決して押し付けるような表現ではなく、「こういう時もあるね」ぐらいの柔らかさです。 第一連では「何かがおかしくなったような現実」を取り上げています。

見た事のない紫雲 ここで言う紫雲

 とは、仏の乗り物でしょうか。それとも、水上偵察機でしょうか。どちらにせよ、何かが起こっていると思わせます。

車の窓から飛び出た象の足

オープンカーならまだ有り得なくもなさそうですが、「どのような車か」を書かれなかったおかげで、異様な光景をありありと想像できます。(そもそも、象が生きているかどうかも書かれてないですし)

「明日から」を掲げる団体

 明日から本気出す、といった言葉をネットでよく見かけますが、実際に、現実にて聞いた覚えはあるでしょうか? ここで、この詩に立ち込める「異様さ」は、十全に描写されたといえるでしょう。 第二連では「現状」が取り上げられています。

マスクで覆われた街に一安心

黄色いものか 赤いものか

その判断はしたくない

 この描写は最近流行りのコロナウイルスを思わせます。「黄色いもの」は感染の虞れがある人、「赤いもの」は明らかに感染している人と読み取れます(黄色は注意を意味し、赤色は危険を意味するのだそうです)。

だから誰もがわからない世界は

居心地がいい

 この詩の中では、この一文が一番好きです。 第三連に関しては、解釈がぐるぐるしてなんとも言えないので、個々人の想像に任せますが、私自身は「こう思う時もあるな」と共感しました。 そしてこの詩は最後に、

悲惨 飛散 でもただの数字なだけ

 と締め括られています。どことなくニヒリズムな着地ですが、「でも」という言葉があったから、紛れもない希望であると感じました。

(選評:仁川路朱鳥)

ふじりゅう賞  

あか「三月の桜、四月の鬼

*前文
迷宮のような作品である。
ビーレビにそれなりの年月在籍し、一定程度作品を読んだ経験則として感じることは
→なんだこれ
という作品にこそ、ジャングルの草木を掻き分け一抹の光を見つけるという楽しみを感じることができる。無論、そこには類まれなる作品への拘りが必要であるし、筆者が込めた想いが明確にあるからこそ、一読して「素晴らしい」と感じられるという大前提があるが。

一 「三月……?」
・文章冒頭は、(恐らく)対話形式で詩文が展開する。作品の主人公となる人物は明確でなく、2人ともが一人称視点で進行する。
ここで注目したいのは、「なぜ一人称なのか」という点だ。会話であると明言したいのならAは一人称視点、Bは第三者視点、つまりAからみた姿を記すのが分かりやすく、読者にも理解されやすい。しかし、筆者は恐らくそれを前提として、あえて両者一人称視点で詩文を構成したと思われる。
・両者一人称視点であるから、両者の姿形はほとんど分からない。一人称視点であるから、この詩文において「客観的視点」が全くない。客観的視点がないからこそ、リアルとは遠く、しかし実際問題として彼等はそこにいて何かを行っているという、右も左も分からない真っ白な空間を何処へ向かうかも分からず走り抜けるような浮遊感を感じさせる。
・そんな「真っ白」な空間へ、濃いリップの赤色のみが映える。そのある種の毒々しさは、「四月の鬼」や「退屈」と線状に結びつき、登場人物達を囲っているかのようだ。

二 「唸るのが聞かれる」
・改行され一転、雰囲気は大きく変わる。まさにタイトルの通り「鬼」を思わせる激しい詩句が並び、嵐に飲まれる船を思わせる。
・「唸るのが聞かれる」私は一瞬、打ち込みミスかと勘違いしたほど聞き慣れない言葉だ。唸ったのは本連で主観として表現される「何か」であり、それは誰かに聞かれた。
・一連目のふわりとした内容に対して、苛烈に批判しているかのような二連目は非常に印象深い。

奴らは守られていて 八方

など、「何か」は彼等のように守られた存在へたっぷり批判し、批判では飽き足らず「脅す」。
・後半の「殺す」。殺す、は本作においてそのままの意味で用いられてはいない。即ち、人間としての堕落、それをまさしく「殺す」と表現されているように思われる。
・「自由を生かす者では決してない」傲慢に殺された者は、他者の冷たい手を何の躊躇いもなく割く。いや、割いた、という事実すら認知しないまま「傲慢」の顔の下に「割く」。そこに自由はなく、自由を傲慢の下に桜の下で謳歌する者たちは、真に生きている訳でもないし、人を生かしているわけでもないのだ。

三 まとめ
緩急、或いは抑揚という点において、本作は大変優れている。前半部の彼等が「退屈」に潰され、だからこそ(片一方か、両者かは明確でないが)恋をするのに対して、彼等を指したのか(私はそう読んだが)、そうでないのかは諸説あるかもしれないが、傲慢に操られ無常に人を殺す人達、つまり「鬼」。それを「四月」と紐付けされることにより、読者それぞれに様々な情景を映らせることに成功している。私もその一人に過ぎず、私の読みは無限大の読み方のひとつに過ぎないのである。

(選評:ふじりゅう)

帆場蔵人

斉藤木馬「層雲(音声版)」

落語や講談、或いはクラシックはお好きでしょうか。あまり?ではポエトリーリーディングは? わからない? 僕もわかりません。(なんでやねん!) いやいやいや、とりあえず話を聞いて欲しい。リーディングのなんたるかなどはわからないが、ただ耳を澄まして欲しいのだ。

 今、僕は夜のベランダでこれを書いている。イヤフォンから芯のある滑らかな声が耳朶をうっている。ベランダからみえる桜は蕾だ。月を観ながら誰かが語っている。それは彼の人生だ。上ばかりみて躓いて、踏みつけた蛙がヴェッヴェッと鳴いた。生きる上で犠牲にしたものや踏みにじったものがない人などいるだろうか。いや、いない。人は一日一日、変わりゆく。年老いてくれば昨日出来たことが出来なくもなるかもしれない。 

なにゆえお前を見上げているのか
憶えているか

 老いの境にある人の葛藤や情念から染み出す言葉がここにある。ここで語られる人生がフィクションであるのかノンフィクションであるのかはどうでもいい。そこに僕が真情を感じるかだけが問題なのだ。

 もしあなたが眼鏡をかけているなら外してみて欲しい。途端に視界はぼやけて桜も月明かりも雲も滲み始める。老いや病は時に視界をじわじわと奪っていく。だからぼやけた視界のなかでその人は黙って薄明かりの夜空を見上げて思い起こすしかないのだ。層雲(層雲は霧雲ともいう)という題名はそうした積み重ねられた記憶の層がおぼろげに崩れそうになっている様なのかもしれない。最後に、

お月さんよ
あんた、あたしの黒目だ
だから口がないのさ

 月が自分の黒目だと語るときに霧雲でおぼろげな世界と自分のおぼろげな視界が重なっていく。もうどうしようもなく語りとテキストが渾然一体となった完成度の高い作品。是非、これを読むあなたも聴いて体験してほしい。

(選評:帆場蔵人)

~~~~~

・月間最多ポイント数、view数、投票数作品ならびに投票作品発表

なお、月間最大ポイント数作品、最大PV数作品、最大投票数作品並びに投票作品一覧は以下の通りです。

2月期最大ポイント数作品(2020年3月25日現在)

南雲 安晴 「幻想離れⅡ」  279ポイント

2月期最大PV数作品(2020年3月25日現在)
ariel 「おばちゃん」  2087.1 view

1月期最大投票数作品

斉藤木馬 「落雁」 5票

投票作品一覧

5票
落雁

4票
涙腺の小人
それぞれに川は流れている

3票
バナナはおやつに入りますか
あのね、おまわりさん
彼岸彷徨

2票
ヒヨドリ
肉になる 牛看取りたり 死産の子
envy.com
おばちゃん
青の飲み物
約束

北に向かって歩く一日
傷つきやすく脆いひとへ、レクイエム

1票
ここではないどこか
椿
偽善者
ハツイク
手紙
ヒト
夢の島
ダンスダンスダンス
バレンタインが氾濫している
バレンタインさよなら。
作り方
干しイカを咥えた黒犬追いかけて裸足でかけてくびーれびさん
働き方骸骨
ill
ゴキブリメンタル
てのひら
ある春
恋歌
おわりない死のながれ
空と海の涯て、水と砂の際
馬が逃げた
John Does Jane Does Town
早春
日出処平成バトルロワイヤル
観音菩薩にキスしたら
わすれても
生きていていいんだ

カタワのオニヤンマ
雪と夜が泥(なず)む
層雲(音声版)

推薦文/選評
みうら
無意味な詩のエクスタシー〜「私の中に出して」
憑依する上等な独白〜「envy.com」
新しい不条理〜黒羽黎斗氏「無題」

南雲 安晴
あなたは「おばちゃん」になれるか 「おばちゃん」

計50作品

~~~~~

・雑感

 今月は投票作品と推薦作品合わせて50作品と、前月を上回る作品が選考対象にあがった。落雁が五票と単独でトップであったが、今回は単純な投票数だけでなくそれを参考に投票された全作品を大賞選考の対象として各選考委員に候補三作品の選出を依頼した。これまでの選考方法を否定するものではないが、1票の作品がより得票した作品に劣るのか? そういった疑問が私とふじりゅう氏のなかにあったからでもある。以下が当初の結果である。

3票

 〇「落雁」斉藤木馬(推薦 たもつ、AB、ふじりゅう)

 〇「比岸彷徨」あか(推薦 たもつ、帆場蔵人、仁川路朱鳥)

2票

 〇「約束」いまり(推薦 たもつ、ふじりゅう) 

1票

 〇「涙腺の小人」左部右人(推薦 AB)

 〇「ある春」武田地球(推薦 AB)

 〇「層雲(音声版)」斉藤木馬(推薦 帆場蔵人)

 〇「バレンタインさよなら。」(推薦 帆場蔵人)

 〇「「envy.com」」夢うつつ(推薦 ふじりゅう)

 〇「ヒヨドリ」杜 琴乃(推薦 仁川路朱鳥)

 〇「肉になる 牛看取りたり 死産の子」羽田恭(推薦 仁川路朱鳥)

 これら十作品を一作品ずつ大賞に相応しい作品であるかを議論した。実に4時間に渡ったものの各選考委員から積極的な意見が出され、作品が絞り込まれていった。元より得票数の多かった落雁、此岸彷徨が上位に来た時点でやはりBレビユーザーの観る目の確かさを感じるものがあった。最終的に「此岸彷徨」(3名)「落雁」(1名)「層雲(音声版)」(1名)の三作品が残り合議の結果、「此岸彷徨」が大賞に選出された。斉藤木馬氏の作品とあか氏の作品を比較して興味深かったのは、「此岸彷徨」について『読み解け、と言われてもなかなか読み解けるものではない、というよりも読み解く類のものではない。』という意見が出たかと思えば「落雁」では『面白いですね、「此岸彷徨」で私は読み解く類のもではない、と述べましたが、この「落雁」には読み解きたいと思わせる吸引力がある。』という感想が出てきたことだ。ある意味では正反対と言える作品が二月の選考では最終的に大賞を争ったのである。その辺りも含めて大賞及び個人賞を読み返して頂くとより一層、詩の奥深さというものがみえてくるのではないだろうか。

 今回は初の司会役で不慣れな所もあったが四時間の長丁場に付き合ってくれた、委員各位に感謝の言葉を送りたい。

 Bレビでは月々の選考委員志願者を募集している。複数人で密に話し合うことは巡り巡って自身の詩作にもプラスをもたらすので、興味がある方はぜひ運営へ連絡をいれてほしい。

(雑文 文責 帆場蔵人)

以上で2月選考の発表とする。

2020.3.26 B-REVIEW運営/B-REVIEW選考委員 一同