ハロービーレビュー。現在、初夏にあって、二十四節季では小満(万物が育ち天地に気が満ちる)、七十二候では紅花栄ゆ(紅花が咲きほこる)です。

 今、現在、非常に季節のエネルギーは宜しい状態にあるといえるでしょう。

 今回は4月期の作品と選評になりますが、ビーレビューの気も充実した方向性へ、向かっていっているのではないでしょうか。

 しかし気負い過ぎても、良い作品は書けないもので。

 手元のグラスの氷をカチャカチャ言わせながら水分補給をして、皆さま文学の道を、にゅるにゅる歩んでいきましょう。

 それでは4月期のレビュー、スタートします。

【最多得票作品】

ちんちん考

橙色

https://www.breview.org/keijiban/?id=12641

 波は、ひらがなの形をしている、というところ、秋が嘘くさい形で書かれるところ、痛みを想起させないところ、そして、個人的にはお母さんの思いやりへの哀しみを感じた過去を想起しました。

橙色さんは、恐らく、この詩で、ちんちんについてのさとりのようなことを行ったのでしょう。幅広く、柔軟に、多くの物事を捉えておられます。それでは、次はどうするべきでしょう。乗り終わったいかだは捨てて行かねばなりません。自らを満足させるだけの詩を書いていらっしゃいますか。もちろん、客観的な視点も十分持ったうえでの。真実を求める詩人なら、創造することが、大切かと。本懐を遂げられましたか。「よく見聞きし、分かり」という賢治の詩は、嘘でも標語でもありません。菩薩のような心で行うことの基本的な精神だと思います。【黒髪】

 

 

 またまた、稲垣足穂の話になるのだけれど、というのも、最近は彼の全集か、万葉集をよく読んでいるので。男女ともに共通したアヌス、A感覚は、足穂に言わせると茶の湯、弓矢の道、能楽に通じるものがあり、女性のV感覚は、小倉百人一首なのであった。A感覚は美しい少年の可憐さであり、Aの派生であるV感覚も美少女を蔵している。では、P感覚、ペニス感覚は?というと、足穂にとってP感覚とは動物的な側面が強く、人工的な物を称賛するこの作家にはそれを持ち上げる言葉に欠けている。

 「ちんちん考」に於いて、その「ちんちん」という語感にこだわるのは、その動物的な側面を排し、ちんちんを、ちんちんとしてフィギュア化するからだろう。げんに足穂もPはアクセサリーだと書いている。ペニス、ちんこ、ちんぽこ、ましてやマラ、ではどうも、動物的側面が強く出てしまう。

 断固としてここは「ちんちん」でなければならない!!

 そして「ちんちん」の語感ならば、これはボイジャー号だ。あとは軌道一直線に突き進んでゆけばいい。だから「ちんちん考」はこんな苛烈で、テキストボリュームがあるのではないか。

 P感覚の、ペニス感覚の、孤独の再評価、と言えなくもない。【田中教平】

 

 

 インターネットでポエムを長く読んでいるとこれは傑作だ!という作品にしばしば出会う それは印象深い人に似ている 今はもう話すツテがなくなっていても 人生の折に触れて思い出したりする たぶんこの作品もそういう類だと思う テクニックがこれでもかと詰め込まれている おせちみたい ごちそうさまでした 【天才詩人2】

【キラーフレーズ賞】

きみは、(と、名付けられた瞬きは)

橙色(ちんちん考より https://www.breview.org/keijiban/?id=12641 )

【四月期セレクション】

シロツメクサを探して

秋乃 夕陽

https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=12620

 おそらくメロディーが先行した詩だと思われるのですが、うたとして単体で成り立っている。うたという文化そのものへのリスペクトがあり、わたしとしては非常に良く映ります。ところでシロツメクサって、万能照応の考え方(出典:『777の書』)ですとタロットの「女帝」に対応するそうです。【Frater Eleayin】

孤独な口づけ

https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=12614

 「想像力の無力さを思い知るべきである」と、思い切った提案をされています。心に空いた穴は、底がない。ふさがって自分の心を、声や身振りで自由に表現できるようになれば、悲しき時も過去のもの、無限に楽しい人生が、待っています。詩を書くという業を選んだものなら、必ず希望を抱かせる詩を書かねばなりません。そのために必要な、内省で書かれた、正しい詩だと思います。【黒髪】

 俺は時々ランドルモールの行き交う人々の流れのど真ん中に立ってわめきたくなることがある そして実際そういう狂ったおじさんを見ることもある ひとりぼっちでいるときの孤独なんてたいしたことがない 本当の孤独はひととひとの間にある 【天才詩人2】

CRAZY Hi-Fi L.S.S.

久司 和夢

https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=12619

 ロックへの憧れ!「それなりに嘘だらけ」、という詩句から、『ロックンロール以外は全部嘘』という漫画のことを想起しました。夢見る瞳で全部見て、この世の全てを歌いたい。そんな風な情熱が感じられます。コンピューターゲームのお遊びから飛び出して、真に不滅なスピリットを手に入れる。【黒髪】

心の中

冬彩

https://www.breview.org/keijiban/index.php?id=12709

 貴重で温かいもの、ガラス。君の笑顔でガラスを色付け、君に預けて包んでもらう。世の迷いから遠く離れた心の中の触れ合いで、心の真珠を頼んでおこう。それは二人を結びつける一つの宝石。【黒髪】

イツカ

宮田

https://www.breview.org/keijiban/?id=12714

 ネット詩にはいろいろな路線が行きかっているのだけれど、この作品に見受けられるように、チバユウスケ路線というものも確かに存在していて、東京のパンクスのように現在でも、この路線はしぶとく残っているのであった。

 チバユウスケ路線に於いて、推敲こそ無様、書いてそのまま即時性アップというのが相応しく、しかしその「書き下ろし」の中にも、作者の生きている膨大な情報が詰め込まれている。人の人生なんて生きられないし、それについてあれこれ言うのはナンセンスなのだけれど、カッコいいな!で、いいじゃないか。という事でセレクションに推挙しました。【田中教平】

feather plain

A・O・I 

https://www.breview.org/keijiban/?id=12696

 推挙するか迷った。しかし「鬼門」を明確に提示する事は有意義だし、鬼門は大体、北に位置するのだけれど、この極北を彷徨っている詩人に対しては、まだ「わかる」作品の部類だと思うけれど、この詩人は「わかる」「わからない」共感する意味でのそれを、明確に拒否しているように思われる。詩作品として「わかる」「わからない」を拒否しつつ、造形(=アート)としての詩を展開する・・・めちゃくちゃ難しい事していません?

 フィギュアスケートのトリプルアクセルについて「ああ、こうなっているのね」というのは現代のカメラ技術を駆使すればわかる。じゃあ、田中、お前やってみろ、と言われて出来ない。だから、その、ビーレビューの実験性の追求ということを加味しつつ、この詩人の作品の前には降参なんだ。加えて、詩、というものが非常に女性的な感性のアートであることも、最近私は自覚しつつある。ぜんぶ作品から教えて貰ったことです。【田中教平】

雨、夜

テイムラー隆一

https://www.breview.org/keijiban/?id=12668

 有機交流電燈は、宮沢賢治。確か人間の比喩だと思ったけれども(違ったか?)「雨、夜」というタイトルネーミングから、単純、電燈のことだとも思われるが、このミックスのテクニックは巧く、深い。住宅 顕信 から田村隆一か?このミックスも手際が良いけれど、すべては「きみがいなくなった」事に焦点が当てられています。しかし書きながら思ったのですけれど、有機交流電燈が人間だとすれば、それらが私に有害な水銀を降らせているわけで、するとここから性悪説を汲み取る事もできそうです。この作者は、音楽でいえば、「ワルツ・フォー・デビー」のようなシックな印象の作風で魅せて、今後を期待して推挙します。 【田中教平】

お腹がへったなあ 

湖湖

https://www.breview.org/keijiban/?id=12640

 さいきんの湖湖さんはよくお酒を嗜んでらっしゃるのか、元々そうなのか。三月期作品「春うらら」でもお酒を嗜んでらっしゃった。「春うらら」では「春」の語の多用によって詩を成立させていましたが、今作では「カラシ蓮根」という語を多用しています。「カラシ蓮根」に想いを馳せつつ、それをメタファーとして、きっと異性をみる目まで昇華させているのは面白いのではないでしょうか。無駄な行がない。 【田中教平】

新年

ほり

https://www.breview.org/keijiban/?id=12632

 東京の事を思い出した。私は学生時代上京し、就職しては脳病に罹ってふるさとに帰ってきました。モノレール。先の記憶にあったのが、モノレールだったかは、混乱の中で失念してしまった。「好きでも嫌いでもない」これは町についてもいえて、あなたから私に対しても言えることだと記述されているのですが、勝手な事を言えば、じっさい、きっと好きだったでしょう。私はこの詩をぼうと読んで、ちょっと昔の女性の事を思い出して、本棚を片づけたりして、もっとその女性のいうことを聞いておけば良かった、と思いました。何か大切なことは忘れたままなのだけれど、この詩を読んでいろいろ思い浮かぶことがありました。【田中教平】

オレンジの波打ち際

ハツ

https://www.breview.org/keijiban/?id=12700

 文体が怖い まずそれが言いたい あと描写もところどころ怖い でも表現全体は美しい ホラー好きは必見の作品【天才詩人2】

You hate yourself(夜のシロップ)

1.5A

https://www.breview.org/keijiban/?id=12720

 もうこうなるとお手上げだね 俺は ストーリーがあってそれが細密にカッコよく書き込まれている だけど俺には分かんないよ まあきっと分かんなくてもいいんだろうな  フィッシュマンズのlong season みたい【天才詩人2】

 2023年5月31日水曜日

真保

https://www.breview.org/keijiban/?id=12706

 あまりにも小品であり あまりにも詩的に既出なボキャブラリーの作品だけど なんだか真に迫る抒情があって うっとりするような気持ち 美味しい紅茶を飲む最初の一口みたいな【天才詩人2】