B-REVIEWユーザーの皆様、平素お世話になっております。
3月の月間B-REVIEW大賞ならびに選考委員個人賞が決定したため、ここに発表いたします。
なお、3月の選考委員は

が務めました。

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目次

・大賞並びに個人賞発表
・選評
・月間最多ポイント数、view数、投票数作品ならびに投票作品発表
・雑感

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・大賞並びに個人賞発表

月間B-REVIEW大賞

こうだたけみ 「こっちにおいで

個人賞

恒常的に眠い人  楽子「分断

沙一   獣偏 「理想的な横断歩道の渡り方

真清水るる  こうだたけみ  「こっちにおいで

とがしゆみこ 沙一「はっかといちご

帆場蔵人 白川山雨人「遠い風習

・選評

大賞

こうだたけみ「こっちにおいで

 ビーレビは主に詩投稿サイトであるが、詩以外にも文芸全般、のみならず画像や動画まで汎く許容されている。本作は、詩の朗読を伴った自主制作アニメである。内容は、舞台化された坂口安吾の『桜の森の満開の下』から着想を得たという。桜と般若、映像は妖艶な魅力を湛えながら、一転して昏い部屋の隅にうずくまる一人の姿に、哀愁を誘われる。言葉遊びめいた詩を朗読する声が小気味よいが、最後に囁かれる「こっちにおいで」には、魂をぬかれるような心地さえした。朗読ならではの巧みな表現。これほど創意工夫と労力の凝らされた作品は、ビーレビ史上類をみない。今後もさまざまな方から多彩な作品が発表されることを願いつつ、大賞に推した。

(選評:沙一)

個人賞

恒常的に眠い人賞

楽子「分断

  楽子氏の『分断』は、難しくない。 「難しさ」の捉え方は様々であるが、ここでは「読解に労力と時間を要する」こと、と定義する。 本作品は全編を通し私たちが普段目にする言葉で構成されており、かつ各行はおよそ5-15文字程度に収められているため非常に読み易い。
作品の導入を見てみよう。

私の足が
歩くことを止めない
私の手が
掴むことを止めない

 この導入を見るだけでも、本作品を難しくないと表現した私の意図が伝わると思う。何もつっかかりのない、ごく自然な言葉たちがそこにはあり、水を飲むようにするすると読み進められる。

 そしてこの読み易さの中に突如として無数の驚きが顔を現すのが、本作品の特徴であり、最大の魅力である。それら驚きとは、たとえばはっとさせられるもの、いたく共感できるもの、そんな捉え方もあるのか…….と感心させられるものなど非常に様々であるが、とにかく様々な驚きが無数に鏤められている。
特に8行目、9行目の

私の身体は
常に分断されている

 は個人的に、令和2年度におけるハッとしたランキング1位である(3月末時点)。読み易さから来る心の安寧、落ち着き、そういったものに突如反旗を翻されたような、川の流れが突如逆流を始めたような、そのような驚きを体験出来る。

 ここにおいて、作品のシンプルさ(読み易いという点で)と作品の読みごたえ(或いは奥深さ)の妙、これら2つの両立を堂々とやってのけている楽子氏と本作品に私は非常に感動し、この度選評に選ばせて頂いた。

 本作品を読む際は、文字をあるがままに捉え読んでいただきたい。
たとえば中盤作品の雰囲気がガラッと変わり、言葉の波状攻撃を繰り出してくる連がある。

私と私の大切な人たちに酷いことをいうあいつら…….

 と書き出されている箇所であるが、ここでは読む速度を上げて激しく、そしてその他の部分は前述のように言葉の水の流れの身を任せ、時にその奔流に驚きを感じて頂きたい。楽子氏の才(彩)が強く感じられる本作品に出逢えたことに感謝すると共に、今後新たに紡がれていく作品にも注目したい。

沙一賞

獣偏 「理想的な横断歩道の渡り方

「琴線にふれる」という言葉がある。詩が、こころの琴の音を玲瓏に鳴らすことがある。それは、感受性にふれた瞬間。 獣偏氏の『理想的な横断歩道の渡り方』は、三月に最も琴線にふれた作品だ。横断歩道といえば、道路を安全に渡るための、子供でさえわきまえている交通ルール、社会を生きるための最低限のルールである。そこにさえ理想的と見做すような、きわめて繊細な感受性に、おどろきを禁じ得なかった。そこには社会からの疎外感をひしと感じ、世俗からはかけ離れているような澄明な響きに、かなしみを覚えた。 ——まだ表題である。しかし本文は、硝子細工のようであり、ふれるのを躊躇わせてしまうほど、繊細な美しさがある。 獣偏氏には、卓越した喩のセンスを感じている。それにしても本人は現代詩をどれほど意識しているのだろうかと、初めて読んだときから疑問をいだいていたのだが、コメントへの返事を読むかぎり、どうやら直観にしたがっているように思える。著者の同月の投稿作品は他に『宇宙飛行士の解剖』『六月』がある。けっして難解さを装っているわけではなく、心中にあるものを具現化するにあたり、これらは必然的にあらわれてきた詩なのであろう。 大いにポテンシャルを感じさせながら、まだほとんど注目されていないこともあり、顕彰に値すると感じた。

真清水るる賞

こうだたけみ  「こっちにおいで

 本作品を どのように 評すれば良いのだろう。鮮烈だった。他に、適切な言葉が浮かばない。「言い 表す」には、文字通り 言葉を 越えている。視聴最初に私は、悲鳴のような 大きな声がでて 驚いてしまった。 本作品の画像は 断片的にTwitterで、公開しておられたので、絵に対する 私自身の思い入れもあった。しかし、私の鳥肌がたった視聴体験には、もっと深いところに 原因がある気がするので、わたしが なぜ 本作品に 魅いられたのかを、できるだけ冷静に 分析してみることとする。 まず、この作品の取り組みは自作アニメであり とても新しい 取り組みだ。しかし、この作品世界は 原初の詩が呪術的であったころと 通じている。巫女は、此の世と 此の世非らざる境に生きる者だろう。そして、桜ほど日本人にとって諸事との別れと 初心をしめす樹は ない。甘い声の巫女は 突如、鬼面の姿に変化(へんげ)する。肝が 一気に 冷える。これは、【時】の芸術だ。 能楽師の安田登が書いておられた【時】 と、いう漢字意味を思い出した。【時】の右側の上は足が止まることを意味し 、右下は「手」。つまり【時】とは、「止」と「手」で、「なにかを、しっかりと つかむ」ことを示している。 私は、この作品によって村人を笑ってきた鬼に出合い。そして、 暗いご時世に へたりこんでいたところを、この作品によって 私の鼻にも花が咲き、陽気なお団子を鼻にのっけて。ついには、星の座標へと 解き放たれた。

泣いてない泣いてなんていないなら手をとるよ

こっちに おいで 。

 最終行に至ったとき、わたしの内面は、ぱあっと明るく解放された。そして、この言葉の音声が耳から離れなくなった。そして、すこし奇異な体験をした。どうしても桜を見たくなり、あるお宅の玄関の桜を、夢中で撮影していると、本当に「こっちにおいで」と、声がした。種を明かせばなんてことはない のだが、その家の方が敷地内に入って撮影するように すすめてくれただけだ。けれど、私は忘れない。 この作品は、生き者だ。わたしは、この比類なき生を持つ本作品に畏敬の念を示さずには、いられない。 詩を 好きでいつづけたお蔭で、本作品に出会うことができた。深い感謝とともに、私の個人賞とします。

とがしゆみこ 沙一「はっかといちご

雪の結晶を模した視覚表現が目を引くし、必然性もあり巧みで美しいが、それを確実に支える抒情的な詩文が良い。
てらいなく、丁寧に選ばれた清潔な言葉たち。

水仙のささやかさを
ときどき分かちあいながら

という季節の囁きのような繊細な表現から、

春の雪
魂の話をしたくなる


 と、自然にしかし一気に踏み込む力量。
タイトルの「はっかといちご」は最終連に書かれる飴玉の味だが、その味を「奇跡みたいな味」と言い切る感性。さりげないが、珠玉の作品であると思う。

帆場蔵人

白川山雨人「遠い風習

 遠い風習、とてもノスタルジアを感じるタイトルであり、この作品のタイトルはこれでしかあり得ないように思える。

芝草をかむとね
破裂の音が聞こえるのさ

 この二行が僕を痺れさせた。日常でおよそ結びつかない言葉の繋がりが詩の世界に僕らを誘ってくれる。こういうものに出会うのが楽しくてたまらないのだ。全体的にしっかりと書かれた叙情詩だと思うしコップン、コップンというオノマトペなど触れたいことはたくさんある。しかし、それは作品を読んで楽しんで貰えればいいので敢えて触れない。
 ちょうど僕の部屋では飼い猫が猫草を噛んでいる。それは僕ら人間が野の獣の一匹であったころ、言葉もなかったころにこんな風に草を噛んでいたのではないか思わせるものがある。それをこの詩とその風景を読むとき思うのだ。安直に言うと自分のなかにある祖先のDNAがざわめき破裂する。コップンコップンとさざめきながら遠くへと運ばれていくようだ。それは本文の最終連のように、

月たちが
お前を遠くへ連れていってくれるだろ

 と、この詩を読む人たちに僕はいいたい。(本文の月は暦だと思う)そして遠い大地に自然とともに生きていた頃の遠い風習まで遡り、僕はまたゆっくりと、今、に戻り始める。そのとき幼い頃に田舎で摘んだ茶の葉を生で囓ったときの味や祖父の顔、山の斜面の茶畑を僕はよぎっていく。なんだか初めて行く旅先の路地で懐かしい空気を感じた時のようだ。そんなノスタルジア、そのもののような詩だと今作品を読み僕は感じている。

・月間最多ポイント数、view数、投票数作品ならびに投票作品発表

なお、月間最大ポイント数作品、最大PV数作品、最大投票数作品並びに投票作品一覧は以下の通りです。

3月期最大ポイント数作品(2020年3月17日現在)
こうだたけみ「こっちにおいで」740ポイント

3月期最大PV数作品(2020年3月17日現在)
石村利勝「レモンサワー」2823.8view

3月期最大投票数作品
帆場蔵人 「遠き火をみつめて」 4票

投票作品一覧

4票
遠き火をみつめて
3票
レモンサワー
チェルノブイリにチェ
独言少女
2票
トマトの缶詰についての詩
午前二時~三時
菜穂は激しく脱糞した
午前二時~三時
あす
1票
永遠の反射
底のシラス
愛とウイルス
海底二万海里奇譚
こっちにおいで
遠い風習
骸骨スフィア
ヘビと戦う
きざし
スペイン廻廊での独白 Soliloquy of the Spanish
はっかといちご
桜の雨
主観を想う存在だけ残っていれば世界は安泰
理想的な横断歩道の渡り方
きりん
教室
生きてるっ
約束
こんにちは まっさらな世界
フィラデルフィアの夜に Ⅻ
バナナはおけつに入りますか
四十九日の花
ショートホープ
非在
回送
静かな底と天井
さよならフォルマッジョ
メントスコーラ
湧水のメモリー                            計38作品

推薦文

みうら推薦
妄想する人は美しい~「レモンサワー」
その空間を愛で埋める男~「静かな底と天井」
トビラ推薦
ボーノ、フォルマッジョ!「さよならフォルマッジョ」
「メントスコーラ」
笹船のメモリー「湧水のメモリー」
石村利勝推薦
人格を与えられた観念-「永遠の乱反射」
物を書くということ-「独言少女」

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・雑感

 今月も得票された計38作品から各選考委員に2作までを大賞推薦作として挙げてもらった。異論があるかもしれないが、得票数を考慮するかは各選考委員にお任せした。その結果として、 

「こっちにおいで」2票 
「あす」2票                 
「トマトの缶詰めの詩」1票 
「 湧水のメモリー」 1票           
「 ヘビと戦う」2票   

 の五作品+最多投票作の六作 (最多投票作については投票したユーザーの意を汲むということで合議の場に挙げることとした)に絞られた。また今回はボイスチャットでの選考を行った。(選考の様子を体感して頂けるかと選考委員各位の同意のもとこちらのリンクで公開)

外部委員のとがしゆみこ氏からも積極的に意見が出て早い段階から、注目作品について意見が交わされていた。ただ、とがし氏の専門である短歌作品が3月は一作しかなかったのは、もう少し外部委員をお願いした時点で外部へのアピールをしても良かったのかもしれない。あらゆるライティングを受け入れるビーレビとしては詩歌というジャンルとも交流があってもよいと思うのだが、まぁ、それは置いておいて選考に話しを戻そう。「トマトの缶詰めの詩」、であるが今作を推した恒常的に眠い人氏の言葉、

トマトの缶詰についての詩 ・トマトの缶詰を様々な文法、比喩を用い書き連ねる面白さを推したいという気持ちともう一点、票を得た作品の中で最も大衆的で、読者に近いという点を評価したいです! 詩は、詩を書かない一般人と距離のあるような印象があります。なんだか日常から乖離しているような、そのような印象です。 しかし本作品にはそのような性格が全くありません。 小学校、中学校の国語の教科書に載せられるような私たちへの「近さ」を評価したいです!

 これは比較的多くの賛同を得た意見で、詩の幅広い読者を意識できる作品だと言えるだろう。作品に漂うユーモラスさが最後の数行でメランコリックに逆転する構造の巧みさに唸るものがあった。2票を獲得していた「ヘビと戦う」も一部の隙もない見事な出来であり、単純に技巧や構成力などで選ぶとしたらこの二作品は普段であれば大賞たり得たというのが選考委員全員の一致であった。(「あす」と「湧水のメモリー」はともに良作であるのだが冗長さや鮮烈なイメージを最後まで保ちきれなかった点などから大賞候補から外す形になった。)

 そのなかで何故、こうだたけみ氏の「こっちにおいで」が選出されたのかは沙一氏の選評にもあるようにビーレビではこれまでにない、自主制作アニメーションと朗読での作品であることが注目されたからだ。もちろん、その一点において作品を選んだわけではなく、アニメーションと朗読それぞれが補完しあってこうだ氏の独特の世界観を創っているというのが選考委員の見解である。またテキストのみならず、動画や画像の投稿が出来る芸術作品の総合投稿サイトとしてのビーレビの転換点となる作品ではないか、という主張がなされた。

 それに一定の理を認めつつも「果たしてこれは詩なのですか?」「今後、動画作品が優位を得るのではないか?」などの意見が出たことも書き添えておきたい。この動画と朗読作品が選ばれることでテキストのみでやってきた人たちや新たな詩人たちへの起爆剤となり目を見張るテキスト作品が投稿される事を願って私も「こっちにおいで」の大賞に賛意を示すこととした。

 今回の選考の結果が果たして、選考委員が言うようにビーレビというサイトの大きな転換点となるのかはまだわからない。しかし、一つの岐路にサイトが立っているのではないかという思いを強く抱くこととなる選考であった。

 今回はボイスチャットでの話し合いで委員各位とは真剣で有意義な意見を交わすことができた。ご協力を頂いた選考委員各位に深く感謝の言葉を送りたい。

 ビーレビでは月々の選考委員志願者を募集している。複数人で密に話し合うことは巡り巡って自身の詩作にもプラスをもたらすので、興味がある方はぜひ運営へ連絡をいれてほしい。

(雑文 文責 帆場蔵人)

以上で3月選考の発表とする。

2020.3.18 B-REVIEW運営/B-REVIEW選考委員 一同

“【お知らせ】3月選考結果発表” に1件のフィードバックがあります
  1. 大賞に選んでいただきありがとうございます。こうだたけみです。

    仕事の帰りにるるりらさんから「フォーラム読んでくださいませ」とだけTwitterのDMが来ているのに気づいて、「なになにー? なんか仕様変更とかかなー」と軽い気持ちで見に来たらびっくりしました。
    正直、コメントもそんなにつかなかったしポイントはほぼるるりらさんからだし(笑)、ちょっとビーレビには合わなかったかなーと落ち込んでおりました。それでも素人なりにがんばったので、誰か個人賞に選んでくれたらいいのになーなんてぼんやり思っていたのですが、まさかの。あわわ。

    大賞など私には縁遠いと思っておりました。もっとがんばりなさいと言っていただけたのだと感じています。とてもとてもうれしいです。今後はテキストだけでも認めていただけるように、そして朗読もイラストも動画ももっと腕を磨いて、日々精進いたします。
    ありがとうございました。

    追伸
    るるりらさんから個人賞をいただけたことがじんわりどっしりうれしいです。選評を読むまで三月の選考委員がどなたかも存じ上げなかった自分を恥じております。
    選考委員のみなさま、運営のみなさま、いつもありがとうございます。この場を借りてお礼を申し上げます。

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