【ビーレビュー大賞】

August will not come 
1.5A
https://www.breview.org/keijiban/?id=11892

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作品解説

August will not comeは日本語にすれば「8月はやってこない」という意味で、もし8月が来なければ、たぶん延々と7月を繰り返すことになるように、どこか時空を超越した永遠性に対する希求に満ちた詩です。構造としては、語り手に加えて、女の子と呼ばれる人物、あなた、幽霊、そして語り手とは別の詩人の詩が作中に挿まれる、多層的な構造で織りなされるワンダーランドは、美しくも鋭い語りそのままに読者の前に印象のランドスケープとして展開されます。どのフレーズを取っても、前衛的でありながらビジュアルスティックであり、どこか親しみ深いような懐かしいようなやさしさがありつつ、表現がまた次の表現を産むような、言霊の即興的ダイナミズムに身を任せた圧倒の作品です。

天才詩人2

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四方八方から、光りのようなセンテンスが、眼前に在る宝石に収束され、宝石からそれら収束した光が上方向、一つの光りとして立ちのぼる、といえばいいのか。その、物語であるのだけれども、私は一読してそれら整合性のようなものを、はかる事、はパスしてしまい、この印字された「August will not come」を読みながら、そう、そう、確かに「こういう感じ」といった、それは何か、十年前くらいか、懐かしい日々を反芻することに意識が向かってしまったので、精読はできていない。しかし、たどたどしく、繰り返し読み、えてして、弦の錆びたアコースティック・ギターと、じぶんで大量に印字して部屋の隅に積んでいた詩の束と、毎日、今も飲んでいるインスタントコーヒー用のサーモスのカップ、そして日に焼けたお気に入りの詩集、というもの達にそっと気にかけ、何度、この、詩を中心としたルーティンをやめたり、またはじめたりしてきたのか、2024年、36歳にもなって、と考えたとき、結局、この作品に出会う為だったのではないか?と思った。そうして他の選者から、また色々コメントが並列して記載されると思うけれど、結局、この立ちのぼる一つの光りのうつくしさにあって、恩恵を受けるものは主として、作者ではないだろうと。その、詩を発表されたのであれば、それは読者との共有物である事は主張される事だが、このジワジワとくる、感興は、書いている者にではなく、寧ろ、読者の為にある。頭の悪い私でもわかる、この喪失感は、ほぼ全ての人間の通奏する感覚に訴える。だから、先に、「こういう感じ」を思い、私は私自身のいつかを考えてしまったとしても、仕方ない事だろうと。最後に再読して、うん、何か「幽霊」という単語に固執している、わたしは礼をしたいくらいの作品なんだ。

田中教平

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選考委員による感想の録音ツイキャス

https://twitcasting.tv/breviewofficial/movie/787604123

編集後記
 この作品を印字、プリント・アウトして、その紙を近くのお寺さんまで散策できるときには持っていき、ベンチで何度か読みかえしました。しかし一人の読み方であると、「あなた」はかつて「女の子」であり、「ハズキと思われる君」、そうして「幽霊」、と呼び名こそ違えど、話者にとっては同一の存在であるという事から脱する事はできず、他にそこに「水子」といった要素、そしてオオイヌノフグリが青い花であり、それは「目」を指して呼ばれるということ、「七夕」からとんで、アルタイルとベガが「十五光年」の距離がある、と、確固としたそこに意味があるなどは、そして、この作品がもっと重層的な作品であるという読みはできなかったので、やはり一つの作品を多くの人間でもって読む、という事は非常に重要であると思いましたし、勉強になりました。
 しかし、上のツイキャスで語った事もここで書いたこともまた個人、個人の解釈に過ぎず、是非作品を読んで、あなたなりのこの作品解釈をしていただければ幸いです。
 クラシックで「春の祭典」という曲が初演されたときに、聴衆はその「オリジナリティー」についていけず、騒然としてしまいましたが、その後「春の祭典」の魅力に、いつしか大人気曲となり、クラシックのスタンダードといった位置を占めることになりました。
 オリジナリティーのある作品が、まず混乱というか騒然をもたらす作品だとすれば、「August will not come」はそれに値する作品であると私は信じています。
「August will not come」の記述が今も謎を含みつつ、今後のネット詩の一つの主流を占める記述の在り方の一つになれば、この作品を推薦したものとして、それ以上の喜びはありません。

田中教平