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セコイア


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セコイアの記録 ON_B-REVIEW・・・・

美しい詩ですね。清濁の混ざり具合が、丁度よいです。映像の移り変わりは想像しにくいにですが、わたしにとっては、言葉の重さや響きやリズムが心地よい、素敵な作品です。 (四方山話)

2023-06-16

   凸凹な世界 雨が降っている 山々は緑を誇り 大地の渇望は満たされてゆく 少女はホッとしたように両手で柄杓を作る 人々は陰鬱を閉じ込めて あるいは口笛吹きながら 時の静寂をノックする 少女は宝箱を開ける前のトキメキで 「甘い水を手に入れたぞ」 男が叫ぶと 万物がぞろぞろとそぞろ寄り 舌と根を伸ばして奪い合う 少女の眼差しが少し曇る 砂漠の蜥蜴の眼の潤みが愛おしく 熱帯のシダ植物は贅沢な座布団に座る 少女は首をかしげながら両手の水を飲み干す 雪に変わった雨は 街を銀色に包み込み 野兎の俊敏さで 寒さが季節を超えてくる 少女はそのとき何も持っていないことに気づく 雪は来る日も来る日も降り続け 天と地の境目がわからない 山々の叫びも 大地の遠吠えも 今は届かない 少女は鉱物のように動かない 雲が切れ日光が射す 感謝と祈りに包まれた地上で ざわめきが蠢きだす 少女はそれでも動かない 人々は歌い踊り 山々は笑い転げ 大地の息吹は芳香に溢れ 空気は極彩色に染まる 誰かが少女に口づけをした 雨が降っている 蛙たちはこれでもかと我が世を謳歌し 田んぼの水面は幾何学模様を描いている 少女はひとつくしゃみをする 部屋でじっとする人々は雨垂れに過去を想い 傘をさして闊歩する人々は靴音に未来を託す 少女は火のある方へ歩きはじめる 「甘い水を手に入れたぞ」 男が叫んでも 誰も来はしない (みんな甘い水を手に入れたんだな) 少女は親切なおばあさんの家の暖炉の前で微睡む 凸凹な世界 不公平な世界 自由と不自由の狭間で 少女はあわいに生きることの意味を知る 美しき両性具有 二本の角を空に遊ばせ 白濁した道を作る 少女ははじめて恋を知る 虹には厚みがあり 海と山をたやすく結びつける そこに風が吹いていることなど 誰も想像できない (「びーれびしろねこ社賞」 応募スレッド)

2021-12-19

    命の音 ぽっちゃり ぽっちゃり 命の音がする ぽっちゃり ぽっちゃり 君の幼気な鼻腔に繋がれた管が 痛々しい ぽっちゃり ぽっちゃり 「この液体酸素の数値が10になったら……」 主治医は逡巡していった 「覚悟を決めてください」 34歳で肺癌を宣告されてから8カ月 手術をするには手遅れで 治療法もなく 死を待つだけの生活に ピリオドが打たれようとしている 数値は2から5になっている 命のカウントダウンは恐怖を突き付けてくるけど ぼくらはそんな無意味な数字に惑わされはしない 君は弥勒菩薩のような微笑で 面会するぼくを迎え 慈悲の眼差しで いつもぼくを見つめてくれた 日々は濃密に過ぎていき なにげない会話には重量があった 君の纏う後光はやすらぎに満ち溢れ 穏やかな空気が漂っていた病室 君の好物の モスバーガーのミネストローネスープ 差し入れると 口に運ぶ右手が愛おしい 1月 命の炎も尽きようかと緊張する日々のなか 眼いっぱいに涙を浮かべて ぼくにいってくれた言葉 「幸せを見守っているから」 2週間後 ぽっちゃり ぽっちゃり 数値は8 夜の病室に響く 命の音 命の音? こんなものが命の音であるわけがない 命の音は 君の人生にも確かにあった 情熱やトキメキや憧れや 健やかな肉体の鼓動や 生命の息吹のはずだ もっと瑞々しく もっと躍動的で もっと感覚的なものであるはずだ ぼくはがばっと立ち上がり 君の鼻から管を乱暴に引き抜いた 君は一瞬息を詰まらせる 窓を開け放つと 冷気が頬を突き刺した どうだ? 君の好きだった 草の匂いがするだろ? 星を見てごらん 竹富島で見た天の川が懐かしいね 風の音が聞こえるかい? 君は風は伝言屋さんだと いっていたよね 今日はなにを伝言してるのかな 寒いかい? そうだね ぼくは窓を閉める 君の両手が苦しそうに宙をい掻いている ぼくは管を君の鼻に通す それが最期の夜 次の朝日を見る前に 君の魂は昇天した やさしい死顔を見ていると 脳裏にショパンが鳴り響く 綺麗に見送ることができた この期に及んで顔を出す 自己満足 家に帰って髭を剃ってこよう 明日からのぼくの生き方次第で 君の一生の重みは変わっていく (「びーれびしろねこ社賞」 応募スレッド)

2021-12-12