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草野理恵子


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バナナの足裏 バナナみたいな足でしょと言った どういう意味か分かんなかったけど 適当にうんと言った 嬉しそうに 今 魚が入ったんです と足裏を見せる 思いのほか白く美しい足裏が 本当にバナナみたいで 嘘をつかなくてよかったと思った それからどうなるのと聞くと 魚が太るという そんな話聞いたことがあると言うと 毎日写真送る?と言う それから毎日 彼が足の写真を送ってくる 見ても見なくてもよかったけど いつ足裏の魚が太るか心配になり 些細な変化を見逃さないようにしている 毎日毎日同じ足裏で きれいにつるんとしている 時々土踏まずを撫でてみる 画面がなぜか少し温かく 湿っている 彼の顔や声は忘れてしまったけど 膨大な彼のバナナに似た足裏の写真を 印刷して大事にしている もし もし写真が途絶えたら きっとバナナの前で私は泣くだろう いつまでも その時足裏の魚はとても太ったのだろう 彼を覆い隠すくらいに 彼の足裏のない世界に 私は存在していたくない 遠く遠く はるか遠く 銃声に似た音が聞こえる 空耳 きれいなバナナのような足裏の写真が きっと明日もまた送られてくるだろう 魚はまだ太ってはいない (「びーれびしろねこ社賞」 応募スレッド)

2021-12-14

剃り残しの髭 緊張すると手のひらから汗ではなく火が出た だから手を振って消さなければならない 幼稚園のキリスト生誕劇の天使の役 初めて手のひらから火が出た 天使は舞台の上でずっと手を振り続けていた いつ火が出るかわからずいつも緊張していたので いつも火が出た 私は思いっきり手を振り続けた 火が出ていないという人が多かった 火が出ていると言ってくれた人は一人だった その子に抱き着いた ありがとうと何度も言って背中に手を回した その子はビクッと不思議な顔をした 私は恐くなって逃げた その子をそれから見ていない 転校したとみんな言った 本当はきっと燃えたんだ 私は小学生で人を殺した 触らぬように生きた 物にももちろん人にも 私は怠け者と言われた 私は頭の悪い者と言われた 私は変人と呼ばれた 手のひらを無くせば 火が出ないかもしれないと思った ナイフで何回も抉り取った 何も変わらなかった アイスノンを握り続けた 凍傷で指先が壊死した 何も変わらなかった 死んだものが好きだ 死んだものは触れる撫でられる 抱きしめることができる 私は死んだものを探して歩いた 死んだ鴉を死んだ犬を猫を死んだ鹿を 死んだアザラシを 見つけ抱きしめ荼毘に付した 私は初めて人を愛した 周到な準備をした 私は彼をじっと見つめ続けた あの人が死んだら抱きしめよう そして一緒に燃えてしまおう * 手のひらの熾火をあの人の背中に押し付けた 死体は困った顔をして尖った顎を上げた 剃り残しの髭が何本かあった 形の無くなった指先を顎に当て 硬い髭を触った その剃り残しの髭が燃えるまで撫で続けた (「びーれびしろねこ社賞」 応募スレッド)

2021-12-14