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有島魯鈍


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『日々の轍』 暗い場所で冬をこす 町に鉛のように降りつもる 雪の透明な夢にみられて 魚は海で溶けていく あれは擦りきれた星のつわぶき 君は僕の秘密を知っていたのか 山猫の熱い吐息に 片っ端からぬかるんでいく 冷たい土のまどろみのなかで 仏頂面の春が 風船みたいに膨らんで割れる 何もかも色褪せて馬鹿みたいだよ 今日も白い呪いのような雪だな 誰か無人の道を駆けていく 町角で青く破れながら 冬の張りつめた鼓膜に 花を打ちつけて笑う あれも巻き戻された春のつわぶき 思いだすたび年老いていく 僕は胸を貫いてどこまでも伸びていく 日々の透明なわだちを抱きしめて眠る 魚の遠い消滅を聞きながら ひとり暗い星の底で夢をみている 春は焼け焦げた雪のまどろみに笑い 走りだすたび青く破れる (「びーれびしろねこ社賞」 応募スレッド)

2021-12-13

『冬の底』 素知らぬ顔で夜が明けて 空からこぼれ落ちた青い光が 大地をかたく閉ざしていく 朝の小鳥たちが木の実をわけあって きらきらと鳴き交わす しお枯れた冬のくゆる歩みが 波紋のように 草木を黒く焦がしていくから ここは日の底、冬の底 渦巻く風と光の底だ 森が泡立つ 凍てつく湖面に 足を囚われた少年の周りを 仔犬が無邪気に駆けている 遠くで海の音がする 思い出したように降りはじめた雪が 高い空の光をたぐって 大地を白く閉ざしていく 星を散らすような声で 小鳥が鳴き交わす 〈ほらお前にも神の恵みだ〉 〈ほらあなたにも神の恵みを〉 (「びーれびしろねこ社賞」 応募スレッド)

2021-12-13